※高校生設定。バレンタイン。





「キヨー!」

放課後。キヨがジャンケンに負けて道ずれにされた、ふたり同じ委員会を終えた。
仲が良いんだか悪いんだか、フジくんこーすけくんヒラくんも別の委員会に所属しており、委員会の日もみんなで帰る待ち合わせをしている。

身支度を整え、だるそうに教室を出ようと歩くキヨを呼び止めた。足を止めてもだるそうだ。周りには私たちしか居ない。
長引いてしまったから、みんなはもう終わったのだろう。


「あ?なに?」

気の抜けた返事をするキヨに、紙袋から透明な袋でラッピング済みのチョコを出して渡した。
「はい!これ、チョコ!」

チョコ、という単語に反応し、一瞬嬉しそうな表情になるキヨがとても可愛いと思った。

その筈が、折角渡したのに、中身をじっと確認するとキヨは無言で、笑顔が消えていってしまった。何よ失礼ね。


「チョコ…ねぇ……」
「なによ。ハッピーバレンタインだよ!何か不満なの?」

はぁ、とわざとらしいため息をつかれ、特に理由も見つからない私の頭は答えに辿り着けない。


「ねえ、俺のこのチョコ……こーすけヒラフジと中身同じじゃね?」
「え、そうだけど」

なんで?そんなこと?同じじゃ不満だったのだろうか。みんな大切な人だから良いかなと思ったんだけどな。だめだったかしら。

「いやでもほら、大切なのは気持ちです!中身同じなのはみんな大切だからです!でも彼氏のキヨくんのチョコには、気持ちがたくさん詰まっています!はい、解決!」

パン、と一拍手するも、キヨの表情は全く変わらず、不機嫌そうな顔だ。


「ねー、俺彼氏でしょ?彼氏だよ?なまら彼氏っしょ?なんかこれ以外にねーの?」
「うーん…無い」
「なんで!?彼氏!あなたのダーリン!your darling!yes!」

妙に発音良い英語が癇に障る。そんなに不満なのか。
「それはイエスだけど、だってキヨは彼氏だし大切だけど、フジくんとこーすけくんとヒラくんも大切だし特別だもん」
「なんだよそれ!」
「いいじゃない、愛情込めてるんだから〜」
やれやれと両手を広げて諭そうとするも、キヨも一歩も引かない。

「俺だけへの愛が欲しいの!!わかってねーなぁ!」
「大丈夫、キヨへの愛はちゃんとあるから!」
「そういうことじゃねぇ」

言い合うものの、本当に引かない。でも私も何も他に用意していないのだ。引いてもらうしかない。


「え〜ゆるしてよ。今度またお菓子作ってくるから!ほら、ね?」
精一杯宥めるように優しく言ってみても、頑固として笑わない。

「それじゃ足りねー」

わがままだなぁ。仁王立ちをするキヨからは図太さが身体の全体から滲み出ているようなオーラだ。


「そんなこと言われても…じゃあどうしたら愛が伝わる?ゆるしてくれる?」

ちょっと引いてみようと言葉を告げた途端、キヨの口元がにやりとつり上がり、まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりの悪人のような顔。
やばい、これは踏んじゃいけないフラグ踏んだかも。


「はい、じゃあ俺にちゅーしろ。お前から」
「ちゅ!?ええ!いやだよ恥ずかしい!」
いきなり何を言い出すかと思えば、目が飛びてるほどの衝撃だった。
今、お菓子の話をしてたんだよね!?なんでちゅー??なんで!?


「じゃーわかれっか。ばいばーい」
ふっと、後ろを向いてドアまで足を進め始めた。手を振るキヨは本当に行ってしまいそうで、捨てられそうな気がして、必死にひきとめる。

「えっ!!待って!やだ!それのが嫌!」


そういうと足を止め、またもやその言葉を待っていたかのように、「じゃあほら、」とキヨはキスをせがむ。

な、なにこれここでしろってこと…。
足を止めたキヨは、わざわざ私と同じ場所まで戻ってきた。

え、ほんとに…?と、尋ねてみても、ほらはやく、としか返されない。


これはもう、やるしかない。こうなってしまうとキヨはきかない。いま周りに誰も居ないのが救いだと思うしかない。

ぐっと手に力を込め、覚悟を決める。


「め、つむって…」

キヨは今までにないくらい、静かに言うこと聞く。

ちゅっ

ゆっくり、優しく触れるだけのキスをした。

火照るように顔の体温が一気に上がった気がする。


「キ、ヨ?」

ちょっと、したよ?ちゃんとしたよ?何も言ってくれないの?
でもさっきよりはちょっとだけ機嫌良さそうで、だけどまだ少し物足りないようなそんな気持ちを表していた。

すると、どんどん近づいてくるキヨ。
え?と思った時にはもう既に唇が重なっていた。
今度は不意打ちでキヨから、さっきの私からよりも少し押し付けるようなキスをされたと思いきや、それだけでなく最後にくちびるをぺろっと舐められた。

「なっ…!」


「仕方ねーけど、これで今回は我慢してやっから。来年はぜってー俺だけ特別仕様ね」

もう頂点にのぼるくらいの恥ずかしさに、私はもう耐えられない。

学校なのに…とつぶやけば、学校はこーゆうことする場所だろと開き直る。
彼女居なかったときは、学校は勉学に勤しむ場所でありリア充がいちゃこらする場ではないと散々主張していたのに。


「キヨ、」
「なに」
「来年も、一緒だよね…?」

なぜ、こんなことを聞いたのかわからない。来年もずっと一緒に居たいと、そう感じた。


「当たり前のこと言ってんじゃねーよ」

もう一度キヨからされたキスは、さっきよりも押し付けているようにつよいのに、なぜか優しいフレンチキスだった。




チョコの代償

キスを交わした瞬間、がらり、引き戸を引き摺る音がした。

「おい、キヨ!名前!こーすけとヒラが待ちくたびれてんぞ!早くかえ……」
私たちを見てぴたりと動きが止まったフジくん。
唇同士が離れた時にはもうフジくんが一時停止していて、これは見られた。見られてしまっただろう。確実に見られた。

「ちょ…!フジくんなんで…!!」

キヨと近いだけでも恥ずかしいと言うのに、フジくんとは言え私たち以外の人の目についてしまったことで、余計顔に熱がいってしまう。

「あ…ごめん…まじごめっ…!」
「……フジく〜ん?」
「やめてキヨ笑顔が怖い!やめて!悪かった!空気読まなかった俺が悪かったけど、こんなとこでちゅーなんかしてるお前らも悪」
「うっせー!路チュー野郎!」
「路チュー野郎はいい加減やめろ!!」

離れてしまった距離にほっとしつつ、少し残念に感じてしまっている私が居て、やっぱ私キヨだいすきだ。

言い争って、いつもみたくうるさく騒いでいる2人を見る。
若干むすりとしてるキヨと、少しこの野郎と思いつつどうにか宥めようとするフジくんはほんとにいつものそれ。

キヨとフジくんとひらくんとこーすけくん、このみんなと過ごす時間はとても大切な時間で、キヨもだいすきだけど、やっぱり他のみんなとの時間も大好きだ。

(ぜんぶぜんぶ、たからもの)



20130215-20150707

pullus