※短い
付き合って何年か経ってる。就職後。
「あーやだ。明日仕事行きたくない」
ぽつりと表現するには大きすぎる言葉を私は溢した。
「あーやめろ。折角の休みなのに仕事のこと思い出させんなバカ」
聞きたくないというように両耳を手で塞いだキヨ。
「ふざけんな名前。この休み中の幸せなごろごろタイムに釘刺すな」
もふもふな毛布に包まりながら右へ左へと体重を移動させる彼は、やけに大きいけど、まるで子どものように見える。
同じベッドに腰掛ける私は、その光景を見てくすりと笑みがこぼれた。
笑みがこぼれても、仕事を思い出すとすぐ消えてしまう。行きたくない行きたくない。最近こればっかりだ。自分でも嫌になる。
「だって行きたくないんだもーん。上司でうざいのが居てさ〜…」
「あ〜俺んとこも居るわ。とびきりうぜーの。」
「やっぱりどこにもいるんだねー。嫌な奴って」
何を言うにも嫌味ったらしい言葉でしか言えなくて、新入社員といえどこっちからしたらむかつく。仕方ないから我慢するしかないけど、むかつくものはむかつくのだ。今に見てろよあのくそ親父。
「まあそんな奴、俺がそいつと同じ年数勤めたら、絶対俺のが出来るね」
キヨは顎に手を持って行き、自信満々の決めポーズをしていた。
「よく言いますわ…」
勢いだけは昔からずば抜けてんだから…。
俺はホントに思ってんだけど、とがちトーンで言ってるから本当に思ってるんだと思う。その気持ちわかんなくないけど。
「でもそうだよね。くそすぎてこいつより出来るようになってやる!って気持ちになるよね。寧ろそう思わないと折れる」
伸びをしてから力を抜いて、ベッドに横向きでキヨの上に寝転がると、ぐえ、と声が出た。
「重いんだけど。お前太っ…ぐえっ」
最後までは言わせない。腹にゲンコツを入れといた。女の子に対して失礼な奴!
そのまま天井を向きつつ、ふぅと息をつく。
「そんくらいの気持ちがなきゃ、どこでもやってけねーよ」
素晴らしい。その通りです。結局最初はどこも嫌に思う気持ちなんて変わらないのは私も分かっている。
「でも、どうしてもモチベが上がらないというか、行きたくなさすぎて負けそうになる時があるんだよね〜…よくないけど。」
「あ〜まあな〜。でも結局自分のケツ叩いて行くしかねーよな。上司とはまあ慣れるまで上っ面だけで上手くやるしかねーよ。」
「そうなんだけど〜。あああ〜…行きたくないなぁ……」
しんとした空気。あ、しまった。あんまり良くないな暗い雰囲気で相手を引っ張ってしまうのは。引きずりすぎちゃったかな。
良くなかったかなと思いつつ、でも本当に少し頑張り疲れてしまったのだ。働き出して3ヶ月目、まだまだ社会人生活長いのに今弱音吐いててどうするのか。
キヨも呆れてしまうだろうか。
何も喋らないキヨに、やっぱり良くなかったなと思い、ごめんねを言おうとして、起き上がったその時だった。
ぐいと腕を引っ張られ、キヨの上に覆い被さるように抱き締められた。
「よしよし。お前頑張ってるもんな。」
髪を少し乱暴にわしゃわしゃと乱すキヨ。
こんな優しいとこは珍しくて、何だか少し照れてしまう。
「何だよ」
「い…いや、優しいなって思って」
「俺はいつでも優しいだろ」
そんなことはないかなぁと心で返答をすると、お前そんなことねぇって顔すんなって当てられてしまった。さすがですキヨさん。
「でも優しい俺も、休むのは許さねー。ここで負けたらお前はどこでもやってけねーし」
「うー…」
それはわかってる。わかってるんだけど、なんかいまいち踏み切れない。くそ人間か私は。
「ほら何言ってんだよ」
両頬を持ち上げられ、キヨの目線は私へと向けられる。
「一緒に住むんだろ」
時が止まったようだった。
「お互いちゃんと働かねーと一緒に住めねーし、結婚も出来ねーぞ」
力強く、迷いのない、はっきりと伝えられたその言葉に、なんとも言えない感情になる。
びっくりとしてる私を見つめていたキヨは、少し恥ずかしくなったのだろうか、ぎゅうと、背中に腕を回し、さっきよりも強い力で抱き締められた。
将来だなんて、キヨはちゃんと考えてくれてるんだ。
キヨが考えてくれてるのに、私は今の自分の事しか考えてなくて、キヨが将来を見て頑張っているのに、私がこんなバカみたいな理由で負けちゃダメだ。
そして、今、私が踏ん張れる気持ちになれるのは、これだ。
答えを見つけられてすっきりとした。これで明日からも頑張れそうだ。いや、また負けそうになっても頑張ろう。
「キヨ、ありがと。私もキヨと住みたいし、結婚もいずれしたい」
「おう」
「だから、その為に今は仕事頑張る」
「そーだ!えらいじゃん」
抱き締められたまま横に倒されると、キヨのはにかんだ笑顔がそこにあった。
「この俺の将来の嫁さんはそーじゃねーと」
幸せは計画的に
(今はまだ遠い話だけれど)
(同棲、結婚、家、子供、色んな計画をたてて)
(ふたりで叶えていこうね)
「おら、ゲームでもすんべや!」
「うん!」
20151015
pullus
|