アイドル




※アイドルパロ(アイドルとプロデューサー)


「…………、ライブの手を抜いているわけではない、よね?」
「鈴にはそう見えているのか?」
「ううん、私の目からはそうは見えてない。でも顔も良くてスタイルも良くて、歌もダンスも良いのに」

 ──なんで跳ねないんだろう。
 日本で跳ねないのはまあ仕方ない。日本では完全無欠のアイドルより隙のある不完全なアイドルの方が好まれる国民性がある。

「鈴に褒められるのは気分がいいな」
「う〜ん、やっぱり言葉遣いかな」
 "クソ"は百年の恋も醒めちゃうでしょ。

 カイザーの明らかな欠点に口の悪さがあり、次点に同業者へのマウント癖がある。矯正すると他のところで不具合が生じてしまいそうなので、注意程度で済ませている。『本当その顔で良かったですね』案件なのだが、きっちり制裁は受けている感は否めない。
 だからこそ、ファンの裾野を広げていくのが肝要。いろんな媒体、いろんな仕事をして目につく確率を上げていく。例えば、地上波のドラマ。頭もいいし演技力もあるから俳優路線もハマると思うけど……

「顔が良すぎてティーン向けのドラマから抜け出せない……!」

 以前出演した学園モノで高飛車御曹司先輩を演じた際に壁ドンからの「へぇ……おもしれー女」「お前に拒否権ねーから」がハマりにハマってしまい似たような役柄のオファーが多くなってしまったのが悩みの種だ。

「演技力はあるんだから挑戦すればいいのに」
「芝居に力を入れてもいいが、鈴はアイドルしてる俺が一番好きだろう?」
「え、うん」
「俳優ならアイドルの後にもできる」

 じゃあアイドルしながらできるもの……バラエティー……バラエティー……?ちょっと博打すぎるかも……?バズりと炎上どっちにも転びそうで自信持って送り出せない。
 あとは……頭がいいからクイズ番組……うーん謙虚さがないから跳ねないかな……ふとした時に出る知性や教養の方がウケるかも……あっ。

「あなたスポーツも得意じゃなかった?」
「俺に不可能はない」
「うん。そうね。で、得意なスポーツは?」
「フットボール」
「!それならサッカーのパネル抜きとかやってもいいかもね」
「フットボールの俺はまた一味違うぞ」
「これ以上カッコよくなるの?生きるの苦労しそうね」

 とりあえずスポーツバラエティー番組を候補に入れる。ここでの反応次第で他のバラエティーなども考え直してみてもいいだろう。
 後は王道に音楽番組か。新曲打ってもいいし、名曲カバー枠に参戦しても良さそう。尾崎のI LOVE YOUなんか歌った日にはさ、昭和を生きた女の子たちがまた恋に落ちちゃうのが目に浮かんじゃうね。
 アニメソングカバーでもいいかな。ヒロ様のprideで絶対アイドル愛NGしてもらっても話題になりそう。ていうか、カイザーが「朕は○リズムショーなり」って言ったら全世界が跪いてハハーって頭を垂れるのに……潔世一だって「絶対に認めない……ッ!!」って抗いながらも頭を垂れてしまうのに……。王位戴冠、次のMVのテーマにしようかな。王冠、マント、剣、どれも似合うだろうなー。
 視線を感じて顔を上げると、優しい眼差しでこちらを見下ろすカイザー。

「なに?」
「仕事してる鈴ちゃんは本当に生き生きしてまちゅねー」
「よく言われる」カイザーがブレイクするきっかけを早く作りたい。そして、そのきっかけは、絶対に私が作りたいのだ。

 ︙

 カイザーには自信がある。己が鈴の求めるアイドル像を具現化できていることに。
 カイザーは恐れている。一つでも下手を打てば鈴が幻滅して離れていってしまうかもしれないことを。アイドル活動はこの際どうなってもいい、たった一人に見放されなければ。ただ、そのカイザーの理想が彼女の望んでいないことであることも、この稼業の足を引っ張っていることも正しく理解している。
 アイドルは、いつかステージを降りる。ほどほどにやって彼女の頭を悩ませ続けるか、彼女のために本気で仕事に向き合うか。カイザーはいつも岐路に立っている。全ては彼女次第。そうとは知らず、俺のために策を巡らす彼女のなんと愛おしいことか。俺の視線に気づいた彼女と見つめ合う。

「甘〜い表情……」でも、なんかアイドルっぽくないね?
「そうだろう?だからこの顔は鈴にしか見せない」

 アイドルが絶対に出してはいけない、たった一人に向ける顔だからだ。

「見惚れたか?」
「……猟奇殺人鬼役とかどう?」
「はあ?」
「絶対需要あるよ〜!自担のキスより殺人見たい層が一定数いるんだから」
 やれやれ、と大袈裟にため息をつく。呆れる俺に、でもさあと彼女が続ける。
「どうせ今生の最期に見る景色なら、カイザーがいいよ」綺麗な顔見て死ぬなら悔いないよ〜と呑気に宣う。
「……叶えてやろうか?」
「え、オーディション受ける?」
「そのうちな」

 そのうちっていつよ!と口を尖らせる彼女は知らない。こうやってチャンスを先延ばしにしている理由も分からない。自分が夢を見せられていることに気付かない。
 要するに、俺は性根までアイドルに向いているのだ。






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