松に鶴




 カイザーがひとりで静かにしている。それはいつものことだが、執拗に首を触ったり、スマホを閉じては開いて見たり、髪をいじり出したり、本を読んでもすぐ閉じてしまったり、どうもそわそわしている。いらいらしていると言い換えてもいいのかも。ティーブレイクに誘っても今はいい、と振られてしまった。そもそも目が合わない。こちらへの視線は感じ取っているものの、カイザーの方へ視線を遣ればふいと逸らされてしまう。横顔での診断となるが、顔色がいつもより悪い。お昼寝もそういえばしていなかった。ひと肌脱ぐか、と飲みかけのアールグレイをそのままにダイニングを後にする。

 ソファに座って本とスマホを交互にちゃんぽんしているカイザーの前に仁王立ち。
「前がいい?後ろがいい?」
「????前」なんだ、おい、話を聞け、と狼狽えるカイザーを華麗にスルーして、カイザーの膝上に跨って座る。肩に手を置きながら、
「おけ、ポジション変だったら自分で動いてね。嫌だったらやめるから安心してね」と声をかける。
「???え、は、今から!?」
「まあまあ、大丈夫大丈夫〜」

 ぎゅ とんとん ぽんぽん

 緊張で硬直した身体をやさしく抱きしめる。頭を軽く抱くように、あたたかさを分け与えるように。時折頭を撫でたり、髪を掻いて。
 ゆっくりと、少し躊躇いや恐れを含んだ腕が遠慮がちに私の背中に回った。ゆっくりと息を吐く。

「眠れない?」
「……嫌な夢を見た」
「どんな?」
「言わない」私も出演しているのだろうな。

「キスしたい」肩に埋まっていた頭が顔を出した。
「元気になったらね」
「キスしたら元気になる」
「一旦おやすみしようね」
 全身に血が巡り身体がほかほかしてくる。だんだん瞼が重くなる。1時間後に起こすからね、と言えばキスで起こせ、なんて。皇帝が眠りにつく物語は、お姫様のそれよりもっと平和で穏やかな日常の物語である。でもそれは、皇帝が自ら掴んだ、選ばれなかったから自ら選び、選んだからこそ選ばれた最良のストーリーである。







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