Setze mich wie ein Siegel auf dein Herz, wie ein Siegel auf deinen Arm.




 本当にクリスマスマーケットにも、ディナーを楽しむためのレストランにも、特別感を得るためのホテルにも行かなかった。朝起きて、痛む身体に鞭を打ってベッドからこっそり抜け出しプレゼントを用意して、キスで朝の挨拶をして、改めてお祝いの言葉を贈って、リビングに二人で向かって、ツリーの下のプレゼントを贈って、部屋着に着替えてご飯を食べて、VODで映画を観て、またご飯を食べて、日本で行きたいところあるか聞いて次の帰省の予定立てて、ちょっと昼寝して、焼いたクッキーを摘んで、サッカーのアニメ見て、ご飯食べながらウーバーで届いたケーキを食べて、また違う映画を観ている。これが観終わったら、お風呂に入って眠るのだろう。

「今日、楽しかった?」
「ああ。生きてきた中で一番、クソ最良の日だった」
「一日中家に居ただけなのに?」オフの日とそんなに変わらなかった気がするけど。
「特別な日に最愛の女と四六時中一緒にいられるなんて、こんな幸福なことはない」
 恥ず。はじまりこそはっきりした言葉がなかった私たちだし、言葉よりも行動で愛情表現をするカイザーだけど、一度言葉を発すれば、日本の愛の言葉偏差値だったら80をゆうに超えてくる。東大入試レベルだ。(?)一晩で法隆寺も建つし、東大にも受かる。(?)お前は東大に行け。(?)


──映画はまだ続いている


「今日のことさ、忘れないでね」
「あ?」
「なんにもしなかったけど、気持ちだけはこもってるから」

 本当は、二度と忘れられないような体験だったりシチュエーションも考えていた。リゾート地や、高級ホテルで過ごしたり、イルミネーションの下でプレゼントを渡したり。彼の人生に私の手で爪痕を残したかった。いつ違う人に巡り合っても、あの年のクリスマスはこうだった、と思い出してもらえるように。あらゆる思い出の中で一番に思い出してもらえるような、大きな爪痕にしたかった。これから迎える大切な思い出の中でも特別輝く宝石のような1日にしたかった。私より綺麗で、私より頭が良くて、私より愛情深い人なんていくらでもいる。何の因果か今隣にいるのは私だけれど、いつ失われるか分からない不確かなものだから。
 そんなことを考えていたらなんだか悲しくなってきて、気分が落ち込む。映画はクライマックスを迎えていた。

「こんな幸せな日を忘れられると思うか?」
「墓場にまで持っていきたい1日だった」それに、と続ける。
「別に、今日だけが特別じゃない」
「え?」
「鈴がいる毎日が、俺にとってずっと特別だから」
「今日は、今日だけは鈴と二人きりで過ごしたかった」
「鈴は何を考えている?俺はそれが知りたい」


──映画はエンドロールが流れている


 よくある、普通のロマンス映画だった。お忍びで街を徘徊する御曹司が身元を隠して普通の女に声をかけ近づいた。警戒するがやがて打ち解け恋愛感情を抱く。気持ちが高まる瞬間にお互いの過去の過ちが明るみになり、二人は別れる。時が経ち、二人はまた再び巡り合う。過去を清算し、前を向く女。全て失ったがまた一から積み上げた男。女のピンチに駆けつける男。窮地を脱し、目が合い、弾けたように抱き合いキスをする。あの時言えなかった「アイ・ラブ・ユー」を最後に幕が降りる。

「私も男の子だったらな」
「そしたらね、私も一緒にサッカーするの」

 私なりのアイ・ラブ・ユー。何だそれ、と笑うカイザー。わかるかな。わかんないかもな。
 クリスマスや誕生日が特別な日じゃないという男と、目の前に愛しい人がいるのに不安に駆られる女の物語は、まだ終わる気配はない。








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