Denn die Liebe ist stark wie der Tod, und die Leidenschaft hart wie die Schelle.




(「雅歌」第八章第六節より)


 クリスマスが終わる。サンタの姿はなかったが、それに見合うプレゼントは用意されていたように思う。
 彼女はなにもしなかったと言ったが、それでもあっという間に夜になってしまった。エンデの概念では"盗まれた"と表現されるのかもしれないが、自身の中では極めて妥当な感覚だった。一分一秒が惜しいと思うほど充実した愛おしい時間。愛する人とただ日常を送ることがこんなにも温かく満たされる時間で、それが自分にとって特別な日だと、惜しむほどもっと一緒にいたいと思ってしまう。そんな自分が少し可笑しかった。

 二人でベッドに入り、愛を語らう。だんだんと瞼の重くなってきた鈴。
「明日からまた練習でしょ」「おやすみ」
 そう言って瞳を閉じる鈴に語りかける。
「俺からもクリスマスプレゼント、もらってくれるか?」
 パチリと目を開ける鈴。お誕生日様なのだから、クリスマスプレゼントは必要ない、試合結果で返せと言われて了承していたから、何それ、聞いてないな?という怪訝な表情。

「俺をやる」
「何の価値もないクソ物だが、永遠にお前を愛することを誓う。いらなくなったら捨てろ」

 幸せを知らなかったから、必要としていなかった。もしあったとしても、これまでの苦しみを帳消しにするような幸せはこの世にはないと分かっていた。
 人を好きになる方法も分からなかった。教えてもらったことがなかったから。
 でも、この小さな女を生涯かけて守りたい、自分のものにしたいという気持ちに名前が付くのなら、それは愛ならいいと思った。知らなくとも、わかるのだ。たとえ肉親から教えられていなくとも、愛する人から教えてもらえるのだ。子は親を選べない。親も子を選べない。だが、愛すべき人は自分で選べる。

「私、あなたを好きになってよかった」

 その夜は、二人抱き締めあって眠った。幼い自分が身の危険に晒されるような夢を見ることも、彼女が俺の元を離れるような夢を見ることもなかった。

 ︙

 朝目が覚めると、鈴の指には指輪が光っている。ブシュロンのファセット。シンプルで合わせやすいもので、これなら毎日つけられるだろうと思って選んだ。

「準備してくれてたの?」
「別に、昨日今日で用意したものじゃあない」
「大切にするわ。プレゼントも、あなたも」
「ありがとう、愛してる」

 この気持ちをぴたりと言い表す言葉が見つからない。どうも言葉にすると何かが足りないような気がする。母国語でない鈴には、もっとディティールが削がれて伝わっているだろう。言葉で表現できない想いは全身から、息遣いから、鼓動から伝わるように。

「俺がいないと生きていけないようになれ」
「はは、愛重!」
「愛なんて重ければ重いだけいいだろ。そもそもお前が軽すぎる」
「あら、あんまり気付かれてないんだ」

「私だって、今まで大切にしていたものが霞んでしまうくらい私に夢中になってほしい」
「あらゆる物事の中から私だけを選び続けてほしい」
「そんな傲慢な願いを持ち続けているのよ」
「些細なことで病んじゃうかも。それでもいいの?」

「いい、それもお前の一部だ」
「丸ごと引き受ける」
「俺を鈴の人生の一部になることを許してくれ」

 ベッドでくっついたままの身体を更に強く引き寄せる。荊に縛られた左腕が目に入る。荊の代表種、野薔薇の花言葉は「愛」。そこに愛があるから、守るものがあるから、この荊は強い。
 鈴が、最期の恋人でありますように。俺たち二人が運命の二人でありますように。サンタクロースに願った。存在するのなら、俺の生涯かけて証明してくれよ。そうじゃないのなら、さっさと殺してくれ。たとえ人生をやり直したとしても、どんな姿になったとしても、俺は鈴に巡り合う。誰かに押し付けられたものじゃない、自分で選んだ運命にしてみせる。







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