御伽話




「お前に役名を与えてやろう」
「献身的に王に尽くす召使いだ」

「……?はい」

 ドイツ棟へ備品のサプライに行ったらなんか絡まれた。他人の事をいきなりメイドとか呼ぶ人間の気が知れないな。

「Aschenputtel!」

 それから執拗に名前を聞かれたり、教える義理もないと思い躱し続けていたら、それならと気安く召使い呼ばわりされてこき使われている。翻訳イヤホンも空気を読んだのか原文ママで翻訳しなくなった。知らない言語の方がまだマシである。

「タオル」「棚に入ってます」
「ドリンク」「セルフサービスです」
「着替え」「部屋に予備ありましたよね」



「ハンカチーフ」「ネス選手呼んでますよ!」

 近くにいたネス選手は「お前という奴は……!」とこぼしながら私をひと睨み、すぐに表情を和らげ「こちらを」とカイザー選手にハンカチを差し出した。ハンカチを受け取り、彼もまた私を一瞥する。目が合うとニコリと微笑まれた。この微笑みで何万の人の心を奪ってきたのだろうなと思うほど顔がいい。そのまま目を逸らすのも失礼にあたりそうなので、ぎこちない微笑みで返す。謎に驚いた様子のカイザー選手が使用したハンカチを寄越し言う。

「クリーニング頼む」「ランドリーボックスにどうぞ」

 チッと大きく舌を打ったのはネス選手だった。

 ・・・

「試合の分析がしたい。モニタールームを借りられるか?」

 その場でモニタールームの空き情報を確認、こちらです、とご案内。

「メガネ」

 知らんが?
 一スタッフがそんなパーソナルなもの持ってるわけないだろう。ネス選手と間違えていらっしゃる。数年前に受けた秘書検定問題を思い出し、部屋を出てからネス選手を探す。タブレット片手に何やら忙しそうなネス選手を見つけ、「カイザー選手がメガネをご所望です」と伝えると「今手が離せませんのであなたが持っていってください」とチェーンのついたお洒落なメガネを渡される。「カイザーを待たせないでください」と急かされモニタールームへ戻り、モニターを見つめるカイザー選手にメガネを手渡す。ありがとう、とお礼を口にしてメガネをかける姿の目を引くこと。高級ブランドメガネのCMを見ている気分だった。視線に気付いたカイザー選手が顔をこちらに向けて意地悪そうに微笑む。

「お前はなぜここで働いている?」

 このインターンを受けた際の面接を彷彿とさせた。

「夢のある仕事に就きたくて」
「でも私自身には才能とかカリスマ性とかないので、夢を見せる側の皆さんの手伝いをしたくて」
「代理人とか、マネジメントできたらいいなと思って」

 椅子をぐるりと回転させ、身体ごと私に向ける。「合格だ」と微笑む。なんか受かったようだ。

「俺について来い、Aschenputtel」
「俺がお前に魔法をかけてやる」

 魔法使いはネス選手では?と口にしたら「魔術師です」とジト目のネス選手がタイミングよく入室してきた。

「絵心から許可が下りました。最終選考中はカイザー付のマネジメントを。選考終了後はカイザーと共に落札したチームへ合流する権利を与えます」

 返事はもちろんJa、ですよね。

「俺と一緒なら、お前も誰かに夢を見せてやれる」
「最高のシンデレラストーリーだろう?」

 知らないうちになにか大きな事態に巻き込まれてしまっていることに私は漸く気付いたのだった。







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