fairy tale




(御伽話 のカイザー視点)


 世界一のストライカーになる。
 その章を生きる俺に必要なキャスト。倒すべき敵、フィールドで俺の手足となる駒、そして、フィールドから離れた日常を献身的に支える恋人。物語に愛は必要不可欠だ。愛のない人生はつまらない。俺に相応しいか、が問題だ。資産家の娘、大物女優、スーパーモデル。様々な女が目線で誘い、俺はそれを受け入れた。が、どれも俺には相応しくなかった。この役を担うには、24/7俺のことだけを考え動かなければならない。オーディション落ちの奴らは自分の事ばかりだ。俺は奴らの宝飾品じゃあない。オーディションは続く。その姿はさながら、その靴にぴったりと合う足を持つ娘を探すどこぞの王子のようであった。

 ・・・

 ブルーロックは俺にとって幕間の戯れであるが、世界一のストライカーになるという演目に於いて、渡りに船、タイムリーオファーとなるはずだ。俺という才能を世界に知らしめ、瞬く間にスターへの階段を駆け上がることだろう。
 ただ、ブルーロックはホームスタジアムではないため不便なことも多い。招聘されている側なので待遇は悪くない。単に勝手が悪いだけだ。小さなフラストレーションを感じるたびに、ホームのスタッフのように気軽に使える、そう、召使いのような人材が欲しい……。そう感じるようになっていた。
 そんなとき、カイザーは彼女と出会った。スタッフ証を首にかけた女がせかせかと働いている。この女をブルーロックという幕間の召使いとした。女であるにもかかわらず、俺に愛想を振り撒いてこないところが面白い。勤務内容をクソ真面目に守るクソつまらない女だ。だからこそ仕事は任せられた。

「私はカイザー選手専属のマネージャーではないので期待しないでください」

 そう言いながらも一度頼んだことは次回には改善されていた。気付けばいつも大きなショルダーバッグを肩にかけ、俺が消耗品を所望するとそのバッグからすぐに取り出し手渡すまでになった。「ドラえもんやん」と言われていたがそれは違う。こいつは俺のシンデレラだ。

 だが、この女はブルーロックの人間。甲斐甲斐しく選手のサポートをしているが、それは俺が望む姿ではない。優秀な人材を見つけたにも関わらず自分のものにしないのは馬鹿のすることだ。And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. そう。俺はわかっている。あの女をどうするべきなのかを。同時に空想する。

 もしもあの仕事人間を俺だけのものにできたら?

 俺だけのために働く女を想像したら不思議と気分が良かった。傍に控えるネスを呼び寄せる。

「あの女、獲るぞ」

 使えなかったら切ればいい。捕まえるなら誰よりも早い方がいい。ブルーロックに所属している今から唾を。インターン生であるから交渉は自由にやってもらって構わないが、所属している内はブルーロックの仕事をさせるとのこと。それも許せないほどになっていた俺は、それならと今の契約より多額の報酬金を提示。端的に言えば、女の買収を提案した。違約金が発生するのならこちらで持つところまで言えば「そこはあの子と交渉して」と投げられた。それは俺の勝利≠意味する。
 斯くして、俺は優良なマネージャーを手に入れたのだった。

・・・

「ミヒャエル、5分後には出発」
「わかってる。俺のAschenputtelは相変わらずクソ真面目ねぇ」

 つい煽るように声をかけてしまうのはこいつが愛しいせい。俺もこいつを前にしたら、其処等のティーンと大差ないらしい。懐かしい呼び名で声をかければ鬱陶しそうに「私を灰かぶり≠ノしてるの、貴方なんだけど」と返される。勉強熱心な彼女は数年かけてドイツ語の日常会話をマスターした。今ではイヤホンなしで会話が成立するが、たまにこういうことがある。

「ブルーロックでも呼んでいただろう?灰かぶり≠ネんて訳されていたのか?」
「そういえば、珍しく翻訳されなかった単語があったような……」灰かぶり≠カゃあないの?そう不安げに尋ねる仕草さえ愛おしく思える。ゆるく背中に手を回し、頬に手を遣る。

「英語ではシンデレラ≠ニ言ったはずだ」

「お前は俺の求めるキャストになると分かっていた」
「お前は俺に相応しい。俺がお前にぴったりの靴を誂えてやろう」
 シンデレラが分かっているのなら、靴なんて作らせればいい。舞踏会にはお前だけを招いて一晩中ふたりきりで踊り明かそう。

「破れ鍋に綴じ蓋と言われないようせいぜい頑張るわ」

 呆れた表情を浮かべながらも、俺の背中に回る腕には俺への愛が宿っている。それに応えるように、やさしくキスを落とす。
 斯くして、俺は最良のパートナーを手に入れたのだった。






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