1h /ミヒャエル・カイザー


「1時間だけ俺にくれないか?」

 彼の印象は、正直言って良くない。同郷の選手を口汚く煽るところが苦手だし、女性関係がだらしないだとか、プライベートでのいい噂を聞かない。反射的に「えー……」と母国語が漏れる。

「どうして?」
「お前と話してみたい。それだけだ。単なる暇つぶしと捉えてもらって構わない」
 ……別にいいけど。断る理由もないし。
「いいですよ。今日の練習解散後の1時間でどうですか?」
「こんな早く機会に恵まれるとは幸いだな、楽しみにしている」
 私とカイザーで一体何の話をするんだ?と練習に戻るカイザーを見送った。

 時間が惜しいからと、スタジアム内にあるカフェでコーヒー片手に対面する。仕事は慣れたか?あの店のランチがおすすめだ。故郷とはどう違う?自分からいろいろ話してくれた。サッカーのことも、故郷の街のことも。

「楽しい時間はあっという間だな」
 また俺との時間を持ってくれるか?という問いに「もちろん」と気持ちよく答えられたのは、純粋に楽しかったと思えたからだろう。学生時代の男友達と話している感覚と錯覚するほどに。
 1時間を数回重ねただけで私は物足りなく感じ始めていた。それは時間にも表れ、気付いたら1時間15分。毎回1時間と断りを入れてくる忙しいカイザーのことだ、このあと予定もあるだろう。「時間過ぎちゃったね」と名残惜しく思いながら席を立つ。

「このあと何か予定入ってるか?」

 帰宅してスーパーで何か買って部屋で夕飯、就寝。予定という予定はなかった。

「話し足りない。ディナーついでにドライブでもどうだ?」

それいいね、私が言ったあの日から
こうなる結果は既に見えてる(字余り)




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