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▼2022/06/21:死に囚われる

ぺるそな キタロー夢


 嗚呼、どうか、赦してください。

 ざあざあと降り続く雨が、感傷的になった心を蝕んでいく。ずっと幻影が見えている。それは私が鏡の前に立つと現れる。青い髪の男の人、忘れた過去が鮮やかに蘇りそうで怖かった。私は忘れていたかった。

「――いつか、きっと」
 その先の言葉を私は知らない。知る必要もない。知りたくもない。

 恋をしていた。恋、と呼べるのかも怪しいものだったけれど、あの人に抱いたこの気持ちは確かに慕情だったのだと思う。
 私はまだ幼く、あの人はオトナだった。制服を着ていたから、今の私くらいの年頃だったのかもしれない。
 あの人は私に話しかけてくれた。孤独だった私にささやかな温もりをくれた。あの人に頭を撫でられるのが好きだった。あの柔らかな声で名前を呼ばれるのが心地よかった。ああ、ああ、嗚呼。

「――ゆるしてください」
 祈るように呟く。毎日呟く。のろのろと顔をあげて鏡を見れば、今日もあの人はあの頃と変わらない姿のまま、私の後ろに立っている。
 嗚呼、私は、どうしたらいいのだろう。
 かみさま、どうか私に知恵を授けてください。私は、忘れること以外にこの人を解放する術が思い付かないのです。

 どうして、あなたは私の後ろに居るのですか? 私なんて、気まぐれに声をかけただけの幼い無知な子供だったでしょう。私はなにも知らないんです、あなたがなぜそうなってしまったのかも、あなたが何と戦っていたのかも。わたし、なにもしらないのに。
 鏡を見る。鏡越しに微笑むその人は、ゆっくりと口許を動かした。

“――まってるよ”

 嗚呼、私はこの人に赦してもらえないんだ。
 誰かこの人を助けてください。私には何もできないの。顔を覆って私は泣いた。
 ざあざあと降る雨が、私と一緒に泣いてくれてるようだった。



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