加賀秋は泥門高校の制服に身を包んでいた。転校が決まってしまったのはもう仕方がないし、しかもあのヒル魔妖一を敵に回すのは恐ろし過ぎる。その為、秋 は精一杯の抵抗として校則を破ってやろうと考えた。王城高校では野望の為我慢していた自分好みのファッションを取り入れた登校初日。
中学時代と同じ、否バージョンアップした派手な白ギャルと変貌を遂げた秋は初日から浮いた為に誰にも話しかけられずに昼休みを迎えていた。
腫れ物には触らない方が身の為である。こんな謎のタイミングで白ギャルが転校してきたら、転校前の学校で問題を起こしたのだろうとクラスメイトもそりゃあ不安がるだろう。
そんな机に突っ伏している哀れな白ギャルに近付く影がひとつ。
「よう、この前ぶりだな!」
泥門デビルバッツの雷門太郎ことモン太であった。アメフト部の手のモノだとすぐにわかった為秋はあからさまに怪訝な顔を浮かべた。彼は少し眉を顰めてわかりやすいなお前とボヤく。
「つーか、かなり雰囲気変わってたから最初わかんなくてビビったぜ」
「アメフト部への勧誘だ!」
「ちげーよ!まぁ、ヒル魔先輩に目ぇ付けられたらアメフト部行き確定だろーけどな…」
「それでも抵抗する!」
アメフト部への強制入部を強いられている。かつてモン太もほぼ同じ境遇だった為に、秋に同情はしているつもりだった。
現在ではアメフトに気持ちを切り替えてはいるものの、野球一筋だった時は激しく抵抗したものだ。
未だヒル魔の愚痴をひたすらボヤく彼女に、モン太は弁当箱を見せながら言った。
「愚痴は聞くけどよ、まずは昼メシ食いに行こーぜ」
▪︎
セナ、まもり、栗田、大吉を誘っていたモン太だったが、アメフト部のメンツ過ぎて秋は勧誘なのではないかと不安がっていた。が、主にまもりがヒル魔に対して怒りを抱いていた為、彼女は警戒態勢をすんなり解いていた。
「まもり先輩は女神なん…?」
秋の一言はモン太をとてつもなく賛同させた。グッジョブサインを無言で送って来る彼に、秋はただ静かにひとつ頷いて返してみせた。そんな事ないよと困り顔のまもりはスルー。ノリは合いそうな2人であった。
と、ムシャムシャと焼きそばパンを無心で何本も食べていた栗田がここでおずおずと喋り出した。
「秋ちゃんは不本意だと思うけど、僕は久しぶりに会えて嬉しいよ」
そしてまた秋はキュンとする。右手で心臓をガッと押さえるとか細い声で言った。
「癒しでしかない…」
「相変わらずだねぇ、秋ちゃん」
ニコニコ笑顔を浮かべる栗田に秋はまたしても癒しだと呟いた。どうやら彼女、中学の頃からこのテンションらしい。
「まぁ、お前も色々思うところはあるだろーけどよ。転校しちまったからには楽しく過ごそうぜ!」
「アメフト部も別に無理に入らなくていいのよ。秋ちゃんが好きな事しないと!」
「せ、青春!」
「みんな!いい人!」
モン太、まもり、大吉の慰めの言葉に秋は心底嬉しそうにぶんぶん頷いた。
しかしそんな光景を見詰めるセナはなんとも言えない表情をしていた。あのヒル魔がわざわざ転校までさせて手元に置いた秋を、アメフト部に入部させない訳がないじゃないかと。しかしこんな朗らかな雰囲気の中そんな事口が裂けても言えない。そんなの、あまりにも空気が読めてない。
それぞれが秋を元気付ける中、セナは相槌のみ打ち続けたのだった。
▪︎
まぁ、そんなこともありましたが。
秋に淡い期待を胸に抱かせてしまったものの。その日の放課後、アメフト部の部活に秋が顔を出していない事に気付くとヒル魔は鬼の形相で部室を後にして行った。
セナはやっぱり言っておけば良かったと罪悪感に押し潰されそうになったが、何も自分には出来ないと諦めて部活に集中する事にした。
「まだ入部届け出してない!」
「さっさと出せ!」
ヒル魔と秋が言い合いをしながらグラウンドにやって来た為、自ずと練習中だったメンバーが注目する。
「ちょっと、ヒル魔くん!」
まもりが少し怒り気味にヒル魔へ食ってかかった。ちなみに昼休みで彼女を散々元気付けたモン太はヒル魔にビビって様子を伺うだけになっている。
まもりが入部したては毎日こんな感じでヒル魔と揉めていた為、なんとなく既視感があるなとセナはビビりながら思った。
「あ?」
「アメフト部のこと、強要しないであげて」
まもり先輩ぃ、とヒル魔に首根っこを掴まれたままの秋が歓喜した。悪魔の眉間にわかりやすく皺が寄る。
「勝つ為にやってんだ、めんどくせー事言ってんな。糞マネ」
「可哀想でしょ!」
「そうだ!可哀想だ!」
オウムの様にまもりが言った可哀想というフレーズを繰り返し口にし始めた秋に、ヒル魔は盛大な舌打ちをかますと、彼女の首根っこから手をパッと離した。重力の関係上、秋は地面にビタンと落下する。
今度は痛いとか謝れとか騒ぎ始めた秋へ、ヒル魔が一言。
「アメフト部入部したら借金半額」
「!!」
その瞬間、加賀秋のアメフト部入部が確定した。
2024/06/12