カレイドスコープのまぼろし
水晶公って気づく前のジジくんのはなし
︎︎ 人は、忘れていくとき声から忘れるのだという。そんな話を昔、なにかの本で読んだ記憶がある。
覚えておきたい声。名前を呼ばれた、沢山の思い出を話した、大切な声。それをずっと覚えていようにも、記憶はどんどん薄れていく。
いっそのこと、なにか魔法でも使っていつでも聞けるよう残しておけないものかーー眠れない夜、そんな事を考えることが増えた気がする。そう思う理由は簡単で、夢に出てくるのだ。
『……まだ起きてたの? いい加減、寝なきゃだめなんじゃない?』
『ーーっと、ジジか。いいだろ、ちょっとくらい』
『ちょっと、じゃないでしょ。あーあ、そんな夜更かしして、明日の調査時間に遅れてもボク知らないよ? ラムブルースに怒られるかも』
『それは勘弁……!』
覚えておきたい声の主と、色んなことを話した日の記憶が。
***
ーーまた、あの夢。
薄目を開けば、そこはもう見慣れた天井。先程まで見ていたテントの様子はなく、クリスタリウムの自分の部屋。
寝起きのぼんやりとした感覚の中で、見ていた夢を思い出す。夢というか、記憶を見ているような。
触れることのできない、こちらからは何も出来ない。そんな夢。あのとき何か伝えていれば、何か変わったのではないか……そう思ってしまうような、夢。
原初世界で眠っている彼との、記憶。
「……なんで、こう毎日見るんだろう」
不思議だね、なんて隣でまだ夢の中にいるタイニーバクに声をかける。彼は夢を見ているのか、もきゅもきゅと口を動かし幸せそうな顔をしていた。
その表情を見ながらかわいいなぁ、と呟きながらほっぺをつついていれば、軽いノックの音が響いた。
きっとこの音は彼だろう。遠慮しがちな、優しいノックの音。ミコッテ族は耳がいいのだ。「はーい、どうぞ?」
「失礼する……起きて、いただろうか?」
「うん、今起きたとこ。どうしたの?」
今日、予定入ってたっけ?
彼の問いに答え、こちらからも質問をする。するとフードを被った彼ーー水晶は優しげに微笑んだ。
「いや、特には。ただ、今日は天気がいいから一緒に視察でもどうかと思ってな」
「へーぇ、いいね。あ! ボクあそこ気になってたんだよね、前にちらっと見せてもらった、医療施設だっだっけ……」
回復は魔法でも出来るけど、こっちの世界の応急処置は知っておきたいんだよねぇ。なんて、伸びをしながら答えればふむ、と彼も考えるように口元に手を当てる。
ーー彼からの色んな提案を聞きながら、ふとボクはこんな事を考えるのだ。ああ、そういえば彼も。
「(こんな感じの、こえで)」
ジジ! とボクの名前を呼ぶ声、夜更かしをしてラムブルースに怒られた時、調査の為だと主張していた時の声。それから、それから。
記憶の中をあさって、覚えている彼の声をかき集めて、それをどうにか繋ぎ合わせて。そうしないと、もう朧気になってしまっている。
雰囲気が似ている水晶公の声で、その声が上書きされてしまう。……もしかしたら、なんて思うことはあった。クリスタルタワー、水晶公の身長や、動作。そして、今目の前で響いている声。色んなところが似ているのだ。
でも、彼には1度否定されている。知らない名前だと。それなら、深く追求してはいけないだろうと。
︎︎
「(もし彼がボクの思う彼ならば、伝えたいことが沢山あるのに)」
そう思いながら、ボクは目の前の彼を見つめる。優しく微笑みながら言葉を紡ぐ、彼に似ている水晶公に。
こんな事を思っちゃダメなんだろうけど、ぼんやりと寝起きの頭は思ってしまうのだ。
ーーあいたいな。会って、いろんな話をして。沢山声が聞きたいよ、ラハ。
なんて、ことを。
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