「しろ、しろ、しろっ。」
俺より三歩ほど先を歩いていた彼女が、興奮した様に声を上げた。
「夜遅えんだから、あんまりデケエ声で騒ぐんじゃ−−。」
「すごいよ、流れ星っ。」
人の話も聞かず、彼女は嬉しそうに空を指差した。
「……見えねえぞ。」
何となくその指の先を辿るが、あるのはいつもと同じ夜空。
いつもよりは澄んでいて、星の数も多いような気もするが、それも気がする程度。
「えー。……あっ、ほらほらほら。また流れた。」
たまたま彼女が運良く見つけられただけだろうと思い視線を下すと、また彼女が明るい声を上げ、夜空よ指差し飛び跳ねる。
「……。」
「なーに、また見れなかったの? しろって運悪いんだー。」
なぜか彼女が拗ねた風に口をとがらせる。
「煩い。」
心からそう思った。深夜だというのに声はでかいわ、いちいち茶化すようにものを言う。
だが、そんな彼女も嫌いじゃなかった。
「あーあ、冬獅郎がどんな反応するか、ちょっと期待してたのにな。」
久しぶりにきちんと呼ばれた名前に、不覚にもドキッと胸が鳴る。
「ほら、しろ。今度は流れ星見つかるまで空見てなきゃだめよ。」
ぐいっと強引に頭を回され、視界は黒いような青いような青紫のような、広い広い夜空に埋め尽くされた。
小さな星は、儚く強い光を放って、静かにまばたきをしていた。
「ねえしろ、あれがシリウス。あれがベテルギウスでしょ? あれ、あともう一つって……。」
「あそこに小犬座があるだろ。その中の一番明るい星わかるか?」
空に絵を描くように、指で星と星を繋ぐ。少し彼女の表情を盗み見れば、真剣な顔をして、俺の次の言葉を待っていた。
俺は彼女が気づかないようにそっと笑い、続ける。
「それがプロキオン。で――。」
「それを繋ぐと冬の大三角形っ。」
言おうとしていた言葉を先に取られたことに少し驚くが、彼女の声がすごく楽しそうに弾んでいたから、俺は今度こそ本当に笑った。
「え、なになに。――あ、しろ。」
ぴんと伸ばした彼女の人差し指の先を視線で追うと、光のシャワーが目に入った。
「すごいすごい、流星群だ。」
今日一番の明るい声を発する彼女は、意識してか無意識か、俺の服の裾を小さくつかんだ。
「……円香。」
「え、――んっ。」
俺はそんな彼女の腕を引き、綺麗な色の唇に、そっと唇を重ねた。
「好きだ。」
彼女の瞳を見つめると、空を駆ける星々のおかげか、俺が彼女に酔っているせいか、きらきらとしたその目に、吸い込まれていきそうだった。
あと少しで飲みまれそうになった瞬間、すっと彼女の目が細くなり、満面の笑みへと変わる。
「知ってるよ。」
そして今度は、その眩しすぎる笑顔に、今度こそ本当に飲み込まれた。
end
2012.02.12
青春っぽいイラスト見まくって、書きたくなったお話。
冬は夜空が綺麗です。