Shrot story
貴方欠乏症
 くらくらする。
 理由は判っている。しろとキスをしたからだ。
「うー、キモチワル……。」
「仮にも彼氏と接吻して、開口一番それか。」
「……だって。」
 くらくら――否、ふらふらする。
「しろのちゅーは、何時も長すぎる。」
 こんなに身体が小さいくせに、半端じゃない肺活量がある事を、私は付き合ってから知った。
 私は酸欠になっていると言うのに、しろは涼しい顔をして此方を眺めている。
「こんなの、不公平だ。」
 しろは、私がすぐ酸欠になることを知った上で、気が遠くなる程長いキスをする。
 そして、唇を離して、意地悪く目を細めて、私をずっと眺めるのだ。
「仮にも彼女が、こんな青い顔をしてるのに。……意地悪め。」
「どうとでも言え。」
 そう言うしろは、何処か愉しげで、こいつは生粋のサディストだと、少し呆れた。
「大体、嫌なら拒めば良いだろ。」
「そんな事したら、火に油。しろは、意地悪なんだから。」
「ばーか。そこまで鬼畜じゃねえぞ、俺は。」
 本当かよと言いたいが、その言葉は呑む事にした。
 言ってしまえば、それこそどうなるか解らない。
「円香。」
 ふにゃとしろの唇が、私の唇に押し当てられた。そしてそれは、珍しくすぐに離された。
「……。」
 久しぶりの短いキスは、なんだかとても擽ったい。
 ……そして、少し、物足りない。
「しろ、もっかいして。」
 すると、しろは顔を赤くしたまま硬直した。
「今のじゃ淋しい。もっとしてー。」
 ぐいぐいとしろの羽織を引っ張ると、しろは乱暴に私の唇を奪い、頭を完全に固定すると、何時ものように長く長くキスをした。
「……っはー。」
 酸欠。
「もっとやれっつったのはお前だからな。文句は言わせねえぞ。」
 すると、もう一度キスを送られた。
 しろ欠乏症になる位なら、酸素欠乏症の方がまだましだと思う私は、相当しろの毒牙にやられてるに違いない。


end
10.01.13
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