Shrot story
思い出にサヨナラ
 冷たい夜だった。
 それは、気温だけの話ではなく。
「フラレちゃったな。」
 吐き出した息は白く、白く色付いた私の吐息はそのまま天へ消えた。
 そして、空からは、そのお返しと言わんばかりに、白い雪がぷわぷわと地上へと降り積もっていく。
 かつて、彼と共に見た雪は、もっと心踊るものだった。だが、今は顔にかかる雪が、ただ鬱陶しい。
 体温によって溶け、滴になった雪は頬を伝い、顎を伝い、地へ落ちる。
 泣けない私の代わりに、涙を流している様だと、私はぼんやり考えた。
 近所の公園に、ポツリとたっている外灯の下。それが私達の恒例の待ち合わせ場所だった。
 別れてしまった今、彼が来る事はないのだけれど、私は小一時間此処から離れられずにいた。
 ……今はまだ、思い出に縋っていたい。
「好き、だったんだな。私。」
 恋をすると、こんなにも苦しくなるなんて知らなかった。
 全部、全部。彼が教えてくれたのだ。
「……ったく。風邪ひく気か。」
「……しろ、来てくれたんだ。」
 背後から、ばさりと乱暴にジャンパーを放られた。
 それは、今までしろが着ていたものらしく、少し暖かい。
「これじゃあ、しろが寒い。風邪ひくよ。」
「これきしの事で、風邪なんざひかねえよ。俺は。」
 相変わらずのビッグマウス。そう思うと頬が弛んだ。
「笑うとこじゃねぇだろ。」
「そう言うしろだって、笑ってる。」
 あれ、おかしいな。おかしいな。
 悲しくて、寒くて、悲しくて。
 涙も出なかった筈なのに、今、私は笑えてる。
「……しろ。」
 しろが来て、吐息の白さも、雪の冷たさも、肌を刺す様な冷たい風も、気にならなくなった。
「来てくれて、ありがと。」
「なんだよ。急に改まって。」
 気持ちワリィ、としろが言うと、プワッと白い息が天へ舞った。
「……此処、寒いね。コンビニ行って、おでんでも買おっか。」
「ったく……。寒い中わざわざ来てやったんだから、お前が金出せよ。」
「……りょー、かい。」
 二人並んで歩き出す。
 少し歩いて振り返ると、あの外灯はもう見えなかった。

「ばいばい。」


end
09.12.27
向日葵さま相互記念
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