彼女は淡い桃色の紙に包装された小さな包みを差し出すと、にこりと微笑んだ。
「なんだ、これ。」
「誕生日プレゼント。」
包みからは、ふんわりと甘い匂いが漂う。バターの匂いもするところを見ると、どうやら洋菓子の様だ。
「作ったのか?」
「うん。私、人並みには料理出来るんだよ。」
意外でしょうと笑う彼女の笑顔は、いつ見ても、とても暖かい。
「クッキーにしたの。流石に和菓子は難しいのばっかりだったから。」
「へぇ。」
包みを開けると、ふわんと甘い香りが室内に放たれた。
「食ってみてもいいか?」
「勿論。感想聞かせて。」
思っていたより、固い感触。
「生地捏ね過ぎだろ、これ。」
食べられない程ではないが、美味しくはない。
「……人にあげると思うとさ、力入るじゃん。それに、生地捏ねるのって楽しいし。」
「お前。それ、明らかに後者が理由だろ。」
俺の言葉に、彼女は眼を見開いた後、誤魔化すように笑ってクッキーを摘まんだ。
「あ、本当だ。固い。」
そう言いながら、彼女はクッキーを一つ平らげた。俺もなんとなく後を追い、残っていた分を口へ運ぶ。
「でも、味は悪くないよね。」
「……まぁ、悪くはないな。」
「正直者め。」
彼女が笑う。俺も笑う。甘い香りがする。美味しくはないクッキー。俺が苦手な、甘い菓子。
「も一個もらお。」
彼女はヒョイとクッキーを口へと放る。
「俺にくれたんじゃねえのかよ。」
俺もつい、クッキーへ手を伸ばす。
そのうち、彼女がくれたクッキーは一つも無くなってしまった。
「……一生分食った気がする。」
歯に張り付いてしまったクッキーに不快感を覚えながら、一言吐きだす。すると、彼女はにこりと笑った。
「私も!」
苦手な甘い菓子も、甘ったるい匂いも、この笑顔があればどうって事無い。彼女はそういう、特別な存在。
「でも、隊長沢山食べたねー。美味しかった?」
「お前が作ったにしては上出来なんじゃねえの。」
「隊長意地悪。」
彼女は再び笑って、クッキーの包まれていた包装紙を取り上げた。
「でも、好評っぽいから今度朽木隊長にも作ってあげようかな。」
だが、彼女にとって、俺は皆の内の一人。
「好きにしろよ。じゃあ、俺もう仕事するから。」
御馳走様と手を合わせると、彼女は満面の笑みを見せた。
「お粗末さまでした。」
そして、甘い香りを残したまま、彼女は部屋を飛び出した。
「つーか、いい加減気付けよ。」
真っ赤になっているであろう顔を押さえ、一人呟く。
嗚呼、本当。何故気付かないのだろう。
end
09.12.02
09.12.02 企画提出
ていうか感はかなり薄い( ..)