Shrot story
おみやげ
「兄さん、見て。」
 商店街の一角に、男が入るには少し可愛らしい土産屋が、ちょこんと建っていた。
「……なんだよ。」
「何って、ほら。綺麗な絵葉書だよ。」
 アルは硝子の向こうに並べられた絵葉書を指差す。
 其処には、サンセットビーチだとか、草原だとか、雪景色だとか、様々な種類の物が並べられている。
「んなモン、買っても使わないだろ。」
「たまにはウィンリィや、ばっちゃんに送ったら?」
「……ウィンリィに連絡入れると、機械鎧の手入れしろだの、あーだこーだ五月蝿いだろ。」
 そう吐き出すと、エドはその場から立ち去ろうと再び歩み出す。
「じゃあ、師匠は?」
「師匠は旅行好きだから、絵葉書なんて必要ないよ。」
「……じゃあ、ホワイト准尉は?」
 エドの足が、面白い程不自然な動きへと変わる。
 アルは愉しそうにそれを眺め、次の言葉をつらつらと並べていく。
「准尉はお土産なんて買って行ったら、凄く喜ぶと思うな。ホークアイ中尉やマスタング大佐に一日中自慢して、東方司令部中をスキップで駆け回るよ、きっと。」
 司令部中をスキップで駆け回るかどうかは判らないが、皆に自慢して回る姿を容易く想像出来たエドは、ピタリと足を停めた。
「どうする、兄さん?」
「……。」
 押し黙るエドを眺め、アルは一言訊ねたが、それ以上、口は開かない。
 しかし、エドにはその沈黙が、無言の催促としか思えなかった。
「……――彼奴の喜ぶ物がどれかなんて、オレらに判んないだろ。」
 口を尖らせ、なんとかこの状況を切り抜けようとするが、アルは、ことごとく抜け道を塞いでいく。
「兄さんからだって言えば、きっとなんでも喜ぶよ。それでも不安なら、幾つか種類を買えばいいじゃないか。」
「ウィスタリアの件で、金は大切にしようって事にしただろ。」
「でも、お金はさっき降ろしたばっかりだろ?」
「……っじゃあ、この店じゃなくても――!」
 エドが声を上げると同時に、店のドアが少々乱暴に開かれ、ベルの高い音が辺りに響いた。
「あの、店に入らないなら、其処で騒ぐのやめて貰えません?」
 強気な態度で言い捨てたのは、どうやらこの店の店員らしく、店名と同じ文字を刺繍した、濃紺のエプロンを身に付けている。
 入るなら早く入れとでも言わんばかりの気迫に、エド達はたじろぐ。が、アルはすぐに立ち直り、いつになく軽い足取りで店内へ入って行ってしまった。
 漸く観念したエドは、アルとは対照的に、重い足を引き摺る様に店に入り、後ろ手にドアを閉めた。
「兄さん。ほら、准尉が喜びそうな物が沢山あるよ。」
 いざ入ってしまえば、羞恥心など何処へやら。
 アルが指差した物を手に取り、図書館を漁る時と同じく、あっという間に自分の世界に入り込み、集中した雰囲気を漂わせ始めた。
 それから幾らか時間が経った頃。
 無事に土産を買う事も出来、すっかり満足したエドは、入店時より些か機嫌を良くして店を出た。
「早く、准尉の喜ぶ顔が見たいねー。」
 そう言うアルを見上げ――、エドは絶句した。
「……アル。それは……?」
 可愛らしい猫のマスコットを眺めるアルをエドは訝しげに見つめた。
「これ? 外から見て、可愛いなーと思ったんだ。」
「……まさか、お前。」
 初めから、これを買う目的だったのでは。
 そう訊ねようと口を開いたが、嬉しそうにマスコットを見つめるアルには、聞こえそうもないと、エドは首を振ったのだった。


「……弟よ。」


end
10.02.25


※ウィスタリア→コミックノベルに出てきた町の名前
TOP
ALICE+