ばちんと叩かれた頬はヒリヒリと痛み、叩いた張本人は、大粒の涙を流し、此方を睨み付けた。
睨んだと言っても、赤く腫れた目に凄みは無い。
だが、ビンタと合わせれば、オレを怯ませるには充分過ぎる威力だった。
「バカ! なんで庇ったりしたの!」
「なんでって……。」
気付いたら、身体が動いていた。
それしか理由が無い。
「バカ! バカ!!」
言って、ベティーナはいよいよ本格的に泣き始めた。
人造人間に攻撃されかけたベティーナをかばい、礼を言われるなら解る。
何故叱られなければならないのだろう。
「バカ……。本当、バカ。」
きゅっとコートの端の端を掴み、萎む様に小さくなっていくベティーナに、オレは何も出来ずにいた。
「バカ。……チビ。」
「おい。」
コートを掴んだまま、擦り寄せるように頭を胸に預けたベティーナに、オレは怒るタイミングを完全に失った。
「……しななくて、よかった。」
返す言葉が、見つからない。
優しく、スルリと、心臓をわし掴まれた様だ。
「……怪我はしてない?」
「あ……、うん。機械鎧が少し壊れたけど。」
「そっか。……そっか。」
ぼろぼろ大粒の涙を流しながら、複雑に笑って、慈しむ様にオレの右腕を撫でるベティーナを、ふんわり抱き締める。
「アンタは、アンタだけのモノじゃないんだから。もう、無茶しないで……。」
涙を拭い、オレの顔を真っ向から見つめたベティーナに、面食らう。
しかし、ベティーナは堂々とした様子で口を開いた。
「もっと、一生懸命――生きて、エド。」
此処でやっと、ベティーナの怒りの訳を知った気がする。
「前にも、アルに叱られた。似たような事で。」
ぽんぽんとベティーナの頭を叩き、もう一度抱き締める。
「他人が大切なのは解る。でもね、自己犠牲は、自己満足だと思うの。」
アンタが傷付く事で、
傷付く人も沢山いるでしょ。
「私だって、そうなんだよ。」
end
10.01.07
説教くせー