Shrot story
冬のぬくもり
「ねっ、ねっ! エド。」
 背後から聞こえたベティーナの声に、ちらりと振り返る。
 すると、ベティーナは嬉しそうにはにかんで、オレの義手に腕を巻き付けた。
 甘えたがりのベティーナは、よく、こうして義手に腕を巻き付けたり、手を繋いだりしてくる。
 始めは慣れない事に慌てたが、今ではすっかり慣れてしまった――触られている感覚もないので、今では殆ど気にならない――。
 義手にしか触れないのは、ベティーナなりの遠慮かも知れないと、最近うっすら思う。
「……。」
 ベティーナは、かじかみ、赤く染まった指を折りたたみ、拳を作っている。そして、時折それに息を吹き掛けては、如何にも寒そうにしてみせた。
「右手(こっち)じゃ冷たいだろ。」
「ううん、冷たくないよ。」
 にこりと笑ったベティーナの、寒さで赤くなった頬が、子供の様だと思う。
「……ベティーナ。」
「うん?」
 ベティーナの真っ赤な指も、頬も、鼻も。嗚呼、冬なんだなと、再認識させる。
「ぐぉっ。」
 ベティーナの決して高くない鼻を左手で摘むと、ベティーナは顔をしかめて親父の様な声を上げた。
「可愛くねー声。」
「いきなり人の鼻引っ張っておいて、失礼な……。」
 オレの手首を掴み、自身の鼻から離すと、オレの顔をじろりと眺めるベティーナ。
 その顔が、あまりに真剣だったものだから、オレは思わず笑ってしまった。
 すると、ベティーナはオレの手首を掴んだまま、至極嬉しそうに顔を崩して笑ってみせた。
「エド、手が冷たい。手袋してるのに、なんで?」
「知らん。」
「……あ、ねえ。」
 するりと腕を離し、反対側に回るベティーナに、疑問付が浮かぶ。
 すると、ベティーナはオレの左手を取り、微笑んだ。
「こうすれば、暖かいよ。」
 元々赤かったベティーナの顔が、更に赤く染まった。
「……ベティーナ。」
「うん?」
「なんで、そんなに手ぇあったかいの?」
 指を絡め、顔を覗き込むと、ベティーナは楽しそうに口を開いた。
「カイロ、持ってたから!」
「……あ、そう。」


end
10.1.2

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