「食い過ぎ。」
そう言ったのは、エドだった。
人が幸せに食べ物を頬張る姿を見、そう吐きだしたのである。
「失礼な。まだデザートも食べてないのに。」
「ゲッ! まだ食う気かよぉ。」
へなへなと机に上半身を預け、至極疲れた顔をするエドに、私は思わず頬を膨らませた。
「あ、でもごめんねアル。随分待たせちゃって。」
ブーイングする赤チビは取り敢えず無視し、その隣に座るアルを見て、少し反省。
「大丈夫。ベティーナが食べてるの、見てて楽しいから。」
「何それ。私、そんな変な顔してる?」
「いや、そうじゃなくて。」
私とアルが会話をしていても、横からブーイングが飛んでくる――正直、かなり鬱陶しい――。
終いに、スプーンをがちゃがちゃといじり始めたものだから、私の額に薄らと青筋が浮かんだ。
「もー! 五月蠅いっ。」
「だったら早くしてくれよ。図書館に行く時間が無くなるだろ。」
「そんなに図書館に行きたいなら、財布だけ置いて、行けば良いじゃん。」
「駄目。それだけは絶対駄目だ。」
ケチ。そう一言呟いて、食べかけのミートパイにフォークを刺した。
「……金だけ置いてったら、ベティーナは金が尽きるまで食べるだろ。」
「……それは。」
反論できないのが悔しいというか、なんというべきか。
「兎に角、お前は食い過ぎだ。オレの研究費だって、いつ底を尽きるかわかんねーぞ。」
ぱくりとミートパイを口へ運ぶ。
これはヤバい。エドが優勢になってしまった。
これ以上、何を言っても己の立場が悪くなると判断し、私は目の前に広がる食べ物達を、胃袋に入れる事に専念しよう決めた。
「まあいいじゃない、兄さん。ボクは、ベティーナが物を食べているのを見ると、嬉しくなるよ。」
「なんで?」
ごくりと喉を鳴らし、食べ物を胃に送り込む。
そして訊ねると、アルの表情が和らいだ気がした。
「幸せそうに食べるから。見てるこっちまで幸せになるんだ。」
「……そんなこと言われたら、デザートもう一個追加するしか無いじゃん。」
「あ、ベティーナ!」
エドは必死に注文を遮ろうとしたが、つらつらとメニューを読み上げる私を見、観念したようだ。
注文したフルーツタルトが届くと、エドは先程よりも疲れた顔をして小さく溜め息を漏らした。
「美味しい?」
「すっごく。」
よかったと呟くアルに、私は思わず笑ってしまった。
「身体。元に戻ったら、作ってあげるよ。そしたら、一緒に食べよう?」
そう笑い掛けると、今まで生気失っていたエドもいつの間にか笑っていて。
アルもきっと笑ってるんじゃないかな。そう思った。
end
09.12.25