Shrot story
何でもないよ
 セントラルにある、小さなレストラン。
 その一番奥の席で、ぱくり、と良く火の通った牛肉を一口。
 『食べる』という行為の出来ない弟が居ても、気遣うつもりは無いらしい少年――エドワードは、先程から物凄い勢いで料理を平らげていた。
「……兄さん、食べ過ぎだよ。」
「馬鹿言え。新年なんだぞ、アルフォンス。」
 言いながら、がつがつとステーキを口に突っ込むエドに、アルはやれやれと首を振った。
「まったく。ベティーナが見たら、なんて言うか……。大体、新年なんて、関係ないじゃないか。」
「……。」
 ずぞぞ、とパスタをすすり、エドは目を泳がせた。と――。
「こーら、エド! 行儀悪いっつーの。」
 背後から頭を叩かれ、エドは残り一本となったパスタを、力なく吸い込んだ。
「あーあー。またこんな高カロリーな物ばっかり食べて! 野菜と牛乳も摂りなさいよ。」
「だぁあっ! 牛乳は関係ねえだろっ。」
 店内だという事も忘れ、声を荒げる二人を見、アルは今の身体では溜め息を吐けない事を心から恨んだ。
「はいはい。そこまでだよ、二人とも。」
 二人の首根っこを掴み、大人しく席に着かせるアルに、レストラン中の視線が注がれる。
 だが、アルは気にする事無く、口を開いた。
「ベティーナも、店で騒ぐなんて行儀悪いでしょ。」
「そーりい、そーりぃ。」
「そんなの、謝ってる内に入んねえぞ! 土下座しろ、土下座!」
 何故エドに謝る事になっているのだとアルは首を傾げたが、よくある事だ(兄に関しては)と流す事にした。
「それより、ベティーナもご飯食べに来たの?」
「うん、新年だからね。豪勢にシーフードパスタでも食べようかと。」
 そして、エドが平らげたパスタの皿を指差した。
「そしたら、コレだもん。考えてる事が一緒だったのかと思うと、ゾッとしないわ。」
「なんだと、コノヤロー!」
「どうどう。」
 どうしてこうも口喧嘩ばかりなのか。
 一度ベティーナに訊ねた事があった。その時、ベティーナは、
「エドとそうしてるの、楽しいし、アルが止めてくれるのが、なんだか可笑しくて。」
 と言っていた。
 ……何が可笑しいんだか。
「……。」
 でも、まぁ。ボクも楽しいからいいか。
 ギャラリーが出来る程騒いでいる二人を眺め、ぼんやりと考える。
 身体が戻ったら、この三人でご飯を食べてみたいと思い、アルは小さく笑った。
「あ、笑ったわね。アル!」
「何が可笑しいんだよー。」
「何でもないよ。」
 何でもない。小さな願いが、また一つ。


end
10.1.1
Happy new year!
鋼夢だと、何故か食べる話ばかりだ
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