Shrot story
月明かりの許
 皆が眠りに着いたころ、シンアの姿が無いことに気付いたヨナは、足場の悪い夜道を、手探りで進んでいた。
 城を追われて、随分長い。暗闇も、舗装されて居ない道も、もう大分慣れていた。
 姫として、城で平和に暮らしていた日々からは、想像も出来ない事だ。
 どこにシンアが居るのか。そんな事は一切分からぬまま進んでいたヨナだったが、ふと人影を感じ、藪を掻き分けた。
「何をしているの?」
 ヨナの声に、シンアは驚いた風も無く、静かに振り返った。
「ヨナ……。」
 ポツリと漏らされた声に、ヨナはニコリと微笑む。
「此処は見晴らしが良いわね。空がよく見える。」
 ヨナが夜空を見上げると、シンアは黙ってそれに倣った。
「月を……、見てた。」
 夜風にかき消されそうな小さな声にも、ヨナはしっかりと反応する。
 シンアの顔を慈愛に満ちたような笑みとともに、じっと見つめていた。
 シンアの名は、ヨナがつけたものだった。彼にとって、月に思い入れがあることは、ヨナにもわかっていた。
「今夜は、月がすごく綺麗……。」
 言いながら、ヨナは小さく欠伸をする。
 それをみてシンアは、空から視線を下ろし、そっとヨナを見つめる。
「なあに、シンア。」
「……ヨナ、戻ろう。ここは……寒い。」
 ヨナはにこりと笑って、シンアの服の裾をそっと引いた。
「ええ、行きましょう。ユンが起きたら、きっと心配するわ。」
 シンアはヨナに腕を引かれ、そっと歩き出した。


 アオは、信じないかも知れない。
 僕には、仲間が……、友達が、できたんだ。
 僕はバケモノだけれど、それを知っても尚、笑い掛けてくれる人がいるんだ。

「ヨナ、ありがとう……。」

 分厚い仮面の下で、シンアは小さく唇を動かした。
 ヨナはそれを知ってか知らずか、シンアの腕を強く握り返し、それは綺麗に微笑んで見せた。
 だが、その笑顔にシンアがまた救われていることを、ヨナは漠然と感じる事しか出来なかった。


(護るよ。君の笑顔も、僕の居場所も。)



end
12.11.17

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