左腕に違和感を覚えて目を開ければ、腕にしがみつくように眠っているベティーナがいた。
すうすうと規則的な寝息を立てるその口元には傷がある。
どうせドジな彼女のことだ。作業している間に何かにぶつけたりしたのだろう。
右手でその傷をそっと撫でれば、ベティーナは擽ったそうに唇を噛んだ。
それでも起きる気配を一向に感じさせない彼女に思わず笑ってしまう。
ベティーナのおでこに小さくキスをしてから、俺は思い切り布団をめくった。
「んん……。」
身を縮こませて布団を求めるような動きを見せたあと、力尽きるように再び眠りだすベティーナ。
毒がぬけるようなその光景にまた笑うと、ベティーナは薄っすらと瞼を開けた。
「おはよぉ。」
牧場主なんかやってるくせに、彼女はとことん朝に弱い。
普段活発でいつも背筋が伸びているような彼女も、寝起きになればこの通り。ナメクジのようにふにゃふにゃだ。
「ニール寒いよぉ。布団ちょうだい。」
「駄目だ。いい加減起きろ。」
「やだあ、寒いー。」
「だからこそだろ。早く世話しに行かねえと、動物たちが凍えちまうぜ。」
雪降ってるしな、と窓の外を見ながら呟くと、ベティーナは渋い顔をしながらのっそりと起き上がった。
「雪ぃ?雪かきしなきゃ駄目じゃん。」
「そういうこった。俺も手伝うからよ。早いとこやっちまおうぜ。」
言いながらベティーナの寝癖を撫でていると、彼女は思い切り俺の腹にしがみついてきた。
「なっ、ベティーナ!?」
結婚してしばらく経つが、こうやっていきなり甘えられる事にはどうにも慣れず、いまだに赤面したり狼狽えたりしてしまう。
そんな俺の様子を見て、彼女はいつも楽しそうにしている。
今回も例に漏れず、眠たそうなとろけた目を悪戯っ子のように細めて、嬉しそうにしたベティーナは、俺の頬に唇を押し当てた後、再び腹の辺りに顔を押し付けた。
「ニール温かーい。いいにおーい。」
「……ったくよぉ。」
嬉しそうにしているベティーナをひっぺがす訳にもいかず、手持ち無沙汰になった手で、彼女の頭を撫でる。
とは言っても、いつまでもこうしていればベティーナが再び眠りについてしまう恐れがあるため、心を鬼にして彼女を腹から剥がした。
「ふふ、ニール顔真っ赤。」
にんまり笑顔でそう言われて、慌てて顔を隠すと、ベティーナは再び俺に抱きついてきて、耳元に口を寄せた。
「好き。」
息がかかるほどの距離でそう言われて、耳まで熱くなるのがわかる。
ベティーナは熱くなった顔にキスをするとにっこり笑って、「可愛いなあ」と漏らした。
その表情にはもう眠気は伺えない。
俺もまた真っ赤になって熱くなった顔に手を当てながら、彼女と同じことを思うのだった。
end
15.09.30
今回は牧場物語シリーズ、はじまりの大地のニール夢で甘々でした
朝からいちゃいちゃっていいよね。