Shrot story
ある日の過ごし方
「好き。」
 そう言って、唐突に、そして半ば強引に唇を重ねると、冬獅郎は目をぱちくりさせた。照れるなりなんなりしてくれれば、もっと可愛いのになと、私はその顔を眺める。
「なんだ、急に。」
「別に、なんでも。――あ、聞こえました? 今ウグイスが鳴きましたよ。」
 ここは、冬獅郎の部屋。今日は珍しく、仕事に余裕ができたから、二人で有給をとって、まったりお家デートなるものをしていた。
 二人で過ごすと言っても、冬獅郎は本を読んだり、少しだけ持ち帰った仕事をし、私はそんな冬獅郎にお茶を淹れ、たまに肩を揉んでみたりと、仕事中と大差のない時間を過ごしていた。
 ひとつだけ違うのは、冬獅郎が時たま思い出したように、私の額にキスをしてくれることか。
 それで十分落ち着いて、幸せな時間になっていたけれど、たまに寂しくもなるわけで。
 構って欲しくてキスをしたものの、そんなことを冬獅郎に伝える勇気までは出なかった。
「鶯? 時期じゃねえだろ。聞き違いじゃねーの?」
「……冬獅郎って、おんなごころが分からないんですね。頭良いのに。」
「あん?」
 冬獅郎の額に青筋が浮いていたので、それ以上は口をつぐむ。
 冬獅郎は勘がいいから、わかってくれるんじゃないか、察してくれるんじゃないかと淡く期待をしていたけれど、どうやら、そう言うわけでもないらしい。
 ちょっとだけ期待を裏切られながら、枯れ枝の間から見える寒空を眺めた。
「……あー。外、寒そー。」
「……。」
 返事がない。そう思って振り返ると、冬獅郎は既に本に夢中だった。
「(つまんないの)。」
 いよいよすることの無くなった私は、まだ青い畳に横たわる。新しい畳の匂いが、なんとなく心地良い。
 このまま一眠りしよう。そう決めて瞼を閉じると、額に温かく柔らかい感触。
「つまんねえなら言えよ。意地はって嘘吐くな。」
 目を開けると、そこには優しい顔をして笑う冬獅郎がいた。
「ねえ、冬獅郎。」
 冬獅郎の羽織りを引っ張ると、少しだけ顔を寄せてきた。
「好きです。」
 私そう言って、冬獅郎の唇に唇を押し当てた。


end
2013.01.02

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