出会い


 パダミヤ大陸にあるローレライ教団の総本山ダアト。この街は教団本部があるので預言を詠んでもらおうと毎日参拝者で賑わっている。
訪れる人が多いからか、武器防具屋さんや食材屋さんの品揃えは豊富で、宿屋も設備がとても良い。全体的に物価が少し高いのは観光地でもあるからだろう。

 わたしがお客さん目線でない理由は家業にあった。それはローレライ教団御用達の仕立て屋として有名な『拳拳服膺』を営む一家に生まれたからである。
 神託の盾騎士団で働く兵士の団服や詠師衣、そして恐れ多いことにローレライ教団の最高指導者である導師イオン様の法衣まで我が家が全て手掛けているのだ。街中で教団の人達が我が家の服を身に纏っているのを見るだけでちょっと鼻高々な気持ちになってしまう。
 
 勿論、庶民向けの服も作っている。一人一人の身体に合った世界でたった一つの服をお客さんに提供するのが仕立て屋の主な仕事であるが、如何せんそれでは値段が張ってしまうということで民衆が手に取りやすい安値の服も売っているのだ。こちらはオーダーメイドではなく、いくつかサイズ展開をしている。

 生まれた時から服飾雑貨に囲まれ、音機関であるミシンのカタカタといった音をBGMにし、両親が服を作るのを見て育ったわたしもその道を目指したいと思うのにそう時間は掛からなかった。

 そして今日、わたしは漸く両親からオーダーメイド解禁令が出された。これでわたしもオーダーメイドが作れるとワクワクしていたのだが、そういう時に限ってオーダーメイドの注文が来ない。
 ショーウィンドウに飾られたマネキンが着ている服を見るだけ見て店内に入らず去って行く人や、店内にやって来てもオーダーメイドではなく安値の服を選ぶお客さん。
 痺れを切らしたわたしは積極的にオーダーメイドはいかがですかと営業スマイルで接客をするも軽くあしらわれてしまう始末。

「(確かにオーダーメイドは高いけど誰か一人くらいは頼んでくれても良くない?!)」

 何度も断られた挙句、いかにも鬱陶しいですと顔に書いてあるのが目に見えて分かると自慢の営業スマイルも引きつってくる。
 執拗い接客はわたしもされる側になれば苦手の部類であるが、今日ばかりはわたしも執拗い接客をしてしまう。鬼気迫るわたしに両親は苦笑いだ。

「いらっしゃいませー!!」

 カランカランっとドアについたベルがお客さんの入店を知らせる合図。わたしはすぐ様笑顔を作り直し、お客さんのほうを振り向いて出迎えたのだがその人物を見てピタリと固まった。

「ヴァ、ヴァン様?!」

 剣術の達人であり神託の盾騎士団を纏めあげる強いカリスマ性を持った神託の盾騎士団の首席総長、そのお方が目の前にいたのだ。
 ヴァン様が直々にやってくるのは珍しいので奥で作業をしていた両親も何事だと慌ててこちらに来た。あまりにも動揺したのか、芯に巻いて作業台に置いてあった布生地がコロコロと床に転がっている。

「これはこれはヴァン様。よくお越し下さいました。本日はどのようなご要件でこちらにいらしたのでしょう?」
「実は折り入ってお願いしたいことがあってな。……シンク」

 ヴァン様がそう言うと彼の後ろから子供が出てきた。ヴァン様と一緒に入ってきたようであるが、彼の影に隠れていたのか、全く気付かなかった。
 お世辞にも綺麗とは言えない、むしろボロボロで色褪せ、所々ほつれているローブを着た子供はヴァン様に促されるまま前に立つ。
 
 背丈からしてわたしと同じくらいの年齢だろうか。目深くフードを被って俯いているせいで性別も分からない。
ヴァン様にシンクと呼ばれていたところを見ると、それが名前なのだろう。

「ほら、シンク。挨拶だ。初対面の人に会った時の挨拶はこの前教えたから分かるな?」
「………………ハジメマシテ。……僕、シンク……」

 やや長い間の後に辿々しい挨拶がぼそっと聞こえた。女の子とも男の子とも取れるような声であるが、一人称からして男の子だろう。
 言語の発達が少し遅れている気がするのは身に纏っているローブを見る限りあまり良くはない環境にいたからかも知れない。

「これはまた随分とお若い。ウチの娘と同じくらいですかね。そちらの子も神託の盾騎士団なのですか?」
「いや、これから士官学校に通わせるつもりだ。しかし身体能力が高いからいずれは神託の盾騎士団の重鎮になるかもしれん」
「主席総長であるヴァン様がそこまで太鼓判を押すとは。いやはや将来が楽しみです」

 お父さんがヴァン様と少し世間話を始めてしまったのでわたしはじーっとシンクくんを観察する。相変わらず目深く被ったフードが邪魔でどんな表情をしているか分からない。

「シンクくん、初めまして。わたしはナマエ。歳は何歳?」
「……12……らしい」
「じゃあわたしの3つ下かぁ」

 シンクくんに自己紹介してもらっていたのにわたしが自己紹介をしていなかったことを思い出したので彼に話しかける。
年齢の他にもいくつか質問してみたが、殆どだんまりだった。尤も深く聞いたところでお客さんの一人に過ぎない。勿論これからご贔屓にして貰えれば嬉しい限りであるが、彼の現状から考えてそれは無さそうだ。今日もヴァン様に言われるがままここにやって来たに違いない。

「よろしくね、シンクくん」

 一応儀礼的にそう言ったが彼は無言を貫き通す。これは対応が難しいタイプの人間だ。

「(どうしよう、会話が続かない)」

 お得意様であるヴァン様直々の依頼を両親がわたしに任せてくれるのかは怪しいが、今日一番最初にオーダーメイドを頼んできたお客さんをわたしが担当することなっていた訳で。
と、なると必然的にわたしが初めてオーダーメイドを手掛けるお客さんはシンクくんだ。
あれだけ早くお客さんにオーダーメイドを頼んで欲しかったが、彼とよろしくやっていける気がしない。

「(次頼んで来るお客さんでいいよ!)」
 
 そう目でヴァン様と話してるお父さんに念を送るも、わたしがやる気に満ちていると勘違いして結局わたしが今回シンクくんの担当になってしまった。
 
 再三オーダーメイドはまだ早いとわたしに言っていたのに……。
何故今回はそう簡単に任せてしまうんだ。
 なんだか最初から難易度MAXな気がしてわたしは幸先が不安になった。

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