「なぁ、……お前の好きな奴って誰なんだ?」
あの轟くんが。鈍感なあの轟くんからそんな事を聞かれるなんて思ってもみなかった。色恋に興味が全くないであろう彼がどうして私に聞いてきたのか。恐らくその理由は数分前、私にとっては人生初めての出来事が原因だ。
液野ひより、普通科の生徒から告白されました。
私に用があるからと1-A寮まで来たその彼は、人があまり来なそうな場所で話したいと言ってきた。その場では出来ない話なんて限られてくるし、彼の雰囲気的にこれから私に話したい事が分かってしまった。告白されるの初めてだぞ。……全く知らない相手だけど。そう予期していた彼は自己紹介をしてくれたが私にとっては申し訳ない程初対面だった。正直普通科の生徒で名前を知っているのは体育祭で上位に食い込み緑谷くんと戦った心操くんくらいだ。
「……えっと、好きになってくれたのは嬉しいのですが、申し訳ないんですけど付き合えないです。私、好きな人いるんです」
そう告げればあっさりと知ってると返された。ただ気持ちを伝えておきたかっただけだと。凄いショックを与えてしまったり、逆ギレされてしまったりするかもしれないと身構えていたのに拍子抜けしてしまう。気持ちを伝えられて満足気な様子の彼は私の恋を応援しているからと言い残し走り去った。
人生初の告白、一瞬過ぎた。彼の行動は勿論勇気のいる事だったと思う。私は轟くんに告白なんてまだ出来そうにないし、だからこそ凄いと思ったし、尊敬するのだけれど。欲を言えばもう少し甘酸っぱい感じのドキドキが欲しかった。
「液野っ!」
「えぇ?!な、なんで!」
息を切らしながらこちらに走って来たのは轟くんだった。そんなに慌ててどうしたのだろうか。寮で何か事件でも起きたとか。相澤先生がA組緊急招集でもかけたのかもしれない。
「お前がっ……不良に呼び出されたかもしれねぇから助けろって麗日が」
「不良?!違う違うっ。告白されてただけです」
「……は?」
轟くん、絶対お茶子ちゃんに騙されている。だって私に用がある生徒がいると呼びに来たのは彼女で。その顔はとても麗かではなく、ニヤニヤしていたから。あれは間違いなく私が呼び出された理由を勘づいている顔だった。
茫然と立ち尽くしている彼に何をどう説明すれば良いのだろうか。取り敢えず不良に呼ばれていないから大丈夫であると言っておいた。
「……お前、モテたんだな」
「どういう事かな?!ちょっと失礼過ぎるっ」
「悪ィ……」
そりゃあ初めてだけども。そんな事は言わないで虚勢を張っておくが。勿論轟くんがおモテになっていることは知っている。呼び出しされてるのを何回見たことか。その度に私は冷や冷やしていた。
「わざわざ来てくれてありがとう。でも本当に大丈夫だから!好きな人他にいるからって断ったし、寮帰ろう?……ってどうしたの轟くん」
寮に向かおうと足を進めていたのに後ろから足音がしない事に気付き、おかしいなと振り返れば驚いた様な表情でまたもや立ち尽くしている轟くんがいた。そうして冒頭に至る訳である。
「……なんでそんな事聞くの?」
「……何でって……よく分からねぇけど。そうだな、……もしかして俺の知ってる奴なのかなって」
「……轟くんにだけは絶対教えてあげられないかな」
だって本人だもの。心の中でそう呟く。轟くんが鈍感でなければ今ので気付かれていたかもしれない。顔色を伺って見るが、それはなさそうだ。先程告白を断った男子生徒より断然ショックを隠しきれないといった様子の彼。大方私に嫌われていたなんてと思っているのだろう。
私の恋も少しだけ一歩進んでみよう。これが、吉と出るか凶と出るかは分からないけれど。轟くんの頭の中を私という人物でいっぱいにしたいと思った。