あの日から轟くんの視線をよく感じるようになった。漸く私の事を意識してくれているみたいで嬉しいが、その代償に話掛けてはくれなくなってしまったのは悲しい。

 押して駄目なら引いてみろ作戦。安直過ぎるかもしれないがこれで行こうと思う。尤も、今までも言う程グイグイ押していないが。

「轟ちゃんに見られているわね、ひよりちゃん」

「後ろから凄い視線を感じると思ってた」

 大食堂でランチラッシュの美味しい親子丼を梅雨ちゃんと食べていたのだが、じぃーっと背中に視線を感じていた。私の真向かいに座る彼女には視線の主が丸見えな訳で。

「彼、冷たいお蕎麦を啜りながら真顔でひよりちゃんを見ているわ」

「とてもシュール」

 気になるのでチラッと後ろを見ると当然轟くんと目が合った。彼は気まずそうに直ぐ私から目を逸らす。それに悲しくなりつつも自分の撒いた種なので仕方がない。

「……これからどうすればいいのかな、梅雨ちゃん」

「向こうから話しかけられるのを待つしかないんじゃないかしら」

「えぇー……」

 轟くんがずっと物言いたげな感じを醸し出してるのは分かる。けれども何も言ってこないのだ。こんな調子がずっと続くなんて耐えられる気がしない。

「轟ちゃんはひよりちゃんのこと好きだと私は思うわ」

「そうだと嬉しい……」

 結局その日も彼が私に話しかけてくることはなかった。この分で行くと私の方が先に折れてしまいそうである。かれこれ何日喋っていないことか。反動でお菓子を沢山食べているから太った気がする。体重計には怖くて乗れないけど。


「液野、話してるとこ悪ィがちょっといいか?緑谷、液野借りるぞ」

 数日後、談話スペースで緑谷くんとヒーローシールの交換をしていたら轟くんがやって来た。久しぶりに話しかけられた事による驚きと喜びでまた彼の名前を吃って変な感じに呼んでしまったけれど、いつもの様に訂正してはくれなかった。

 轟くんは私の腕を了承を得る前に掴むと無言でスタスタと歩き出す。強引に連れ出された私を緑谷くんはオロオロとした目で見ていた。

「…………」

「えっと……轟くん?何か用があって呼んだんじゃないの?」

「……分からねぇ。……けど、なんかお前が緑谷と楽しそうに話してたから」

「へ?!」

 その理由はつまりはそういう?いや、待て。早まってはいけない。相手はあの轟くんだ。もしかしたら緑谷くんと仲の良い私に嫉妬しているとかもあり得る。

「お前の好きな奴って緑谷なのか?」

「何故?!緑谷くんじゃないよ」

「じゃあ誰なんだ?」

 意外としつこいな、轟くん。私が好きなのは貴方だから。心の中ではそう何度も告白している。ところで彼の用事とはまたこの事を聞きたかっただけなのだろうか。少しだけ期待もしていたのだが。

「こ、この前も言ったけど、教えてあげれないよ。もう勘弁して下さい……」

「仕方ねぇだろ、気になるんだからよ」

 心臓に悪いから無自覚ににそういう事言わないでほしい。少しどころか期待が高まってしまうではないか。

「お前に嫌われてんのかと思って近づかねぇようにしてたけど、他の奴らと楽しそうにしてんの見てて羨ましかった。さっきもお前が緑谷に笑ってんの見て苛々した。……なぁ、これってどういうことかお前分かるか?」

「もうっ!それくらい自分で分かるようになって!このっ鈍感くん!」

 轟くんがあまりにも鈍感過ぎてやばい。私の事好きなんだよ、なんて自意識過剰女みたいで言えるわけないだろう。こうなったら意地でも私から告白しないぞ。

 ……どうやら彼が自覚するのはまだ少し時間は掛かりそうであるが、今のところ良い風が吹いていそうなので嬉しいです。







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