帯電ボーイと漢気ボーイ

 ピロンっと携帯から通知音が聞こえた。送り主は恐らく切島。ロックを解除して確認すればやはり予想通りの人物からだ。漢気とかけ離れた可愛らしいそのスタンプに思わず笑う。頭にちまっとしたメンダコを乗せたサメ。鋭い牙を持つ怖い海洋生物のイメージがあるサメもゆるっとしたタッチで描かれてる。加えていまいくぜ〜≠ニこれまた気の抜けるフォントだ。俺は俺でうェーい≠ニ了解の意味を込めてヒーロースタンプを送る。元A組の面々が集結したこのスタンプが出ると聞いた時は喜んだが、俺のチョイスされた台詞が残念過ぎた。耳郎の奴にめちゃくちゃ笑われたんだ。


 今日は久しぶりに飲みにでも行かないかと駄目元で切島を誘ってみたわけだが、案の定断られた。まぁ、だろうなと予感はしていた。だから爆豪や瀬呂辺りに声を掛けてみたのにこっちにも断られる始末。皆してなんだよといじけていた時、やっぱり行けるとまさかのあの切島が前言撤回してきた。なんでも千晴ちゃんに言われたようだ。友人付き合いも大切だと。もうすぐ3歳になる息子を持つ切島は心底家族を大事にしてっから休みの日は勿論、妻と子供に費やし、仕事終わりも2人が待ってるからと忙しなく帰る。現場が一緒になった時なんていつも一目散に帰っていくのを目にするから日頃からそうなんだと勝手に決め付けてたが……。間違ってね〜な?家族想いのヒーローランキングがあれば一位を取れそうだろ。

 俺が切島鋭児郎と出会ったのは雄英に入ってからで、切島よりも早く千晴ちゃんとは出会っている。なんなら中学で同じクラスにもなったし、ナンパもした。まさか切島の気になってる女の子が俺と同中だった青空千晴ちゃんだなんてと当時はびっくりしたのを覚えてる。

 毎朝健気に一緒に登校したり、悪知恵働かせたのか傘を忘れたなんて嘘をついて相合傘したりとか、切島なりに頑張っていたのを知ってたから付き合ったと報告された時は一緒に喜んだもんだ。そのまま別れることもなく同居生活からの結婚。今では子供もいる。なりたい職業で稼いでそれを大切な家族に使う。幸せ過ぎるだろ。

「わりぃ、上鳴。遅れちまったわ」

「俺も結婚してぇな!」

「なんだよいきなり。もう酔ってんのか?明日オフなのは知ってっけどあまり飲み過ぎるなよ」

「まだ飲んでね〜よ。素面だ」

 お洒落な上着をハンガーに掛けて俺の真向かいに胡座をかいた切島。あれだろ、その上着も千晴ちゃんが選んだとかそういうやつだ、絶対。以前のお前はそんなお洒落な上着を着るタイプじゃなかっただろ。どうせ似合うとか言われて買ったんだ。実際似合ってるけどさ!


「羨ましいぜ切島〜!俺に千晴ちゃんくんね?」

「はぁ?駄目に決まってんだろ!俺の嫁だぞ?!」

「言ってみて〜じゃん?なんだよ俺の嫁って……」

「俺は何も間違った事言ってねェーぞ?……つーかお前なぁ、その千晴ちゃんって呼び方やめろよ」

 心が狭過ぎるぞ、切島。そもそも千晴ちゃんの名字が青空から切島に変わっちまったから千晴ちゃんって呼んでるのによ。そう返せば、そうだったそうだった、なんて照れるからもう結婚してから何年目だよと思わず突っ込んだ。このやり取りも何回したかわかんね〜。こうなってくるとわざとやってんじゃね〜の?

「上鳴だって彼女いたじゃん。ほら、えーっと厚化粧の女優」

「もう別れたわ。それに一つ前の彼女は女優じゃなくて普通にOL」

「……お前なぁ、よくそれで結婚したいなんて言えるな?週刊誌の常連だろ?来るもの拒まず去るもの追わず、プレイボーイのチャージズマって見出しのやつ見たぞ」

 なんかちょっとかっこ良さげなフレーズじゃんなんて笑う。そうして酒を呷って喉に流しこむのと同時に会話も受け流した。そんな俺の様子に呆れたのか切島は溜息を吐いている。そりゃあ幸せな家庭を持ってる切島が羨ましくない訳じゃねぇ。ただ自分が一人の女の子と一生添い遂げる未来が想像出来なかった。

「……まぁ、俺の話は置いとくとしてさ。そろそろお前の息子の個性発現してもおかしくないんじゃね?3歳になるしよ。」

 適当に切島の分の飯も追加で頼んだ俺はここぞとばかりに話題を上手くすり替えた。深追いしないタイプなのか、俺の様子を察したのか、特に気にしていないのかは分かんね〜。それでも次の話題に乗ってくれた切島に感謝する。

「それがよ、この前発現したんだわ。俺と同じ硬化の個性。しかも発現の仕方まで俺と一緒だった!」

「おお!おめでとう!……ってお前と発現の仕方が一緒ってやばくね〜か?大丈夫かよ?!」

 切島の右目上には小さな傷があって、それは目を擦った際に初めて硬化の個性が発現してしまった時のものだと本人から聞いた。それを思い出した俺は一歩間違えれば失明とかもあり得るだろと心配になる。尤も今日ここに切島が来ている時点で大丈夫なんだろうけど、念の為に聞けば、傷は残るけど視力に問題はないらしい。

「まだ個性のコントロールが難しいみたいでよ、泣いた時とか硬化すっし、走り回りながら硬化してあちこち物壊すんだわ。最近は千晴に抱っこさせるのも危ねェから俺がするようにしてんのにママがいいって俺を攻撃してくんだぜ?悲し過ぎんだろ!」

 そう言ってぐびっと一気にノンアルコールを飲み干す切島。育児の大変さやら、息子が可愛いやら、千晴ちゃんが可愛いやらと、間違って店員が度数強めの酒でも持ってきたのかと疑うくらい饒舌に喋る喋る。ちなみに切島も明日はオフらしいのに何故ノンアルコールを頼んだのかと言うと、万が一にも子供が熱を出したり体調が急変したりした時に車の運転を出来るようにらしい。良いパパしてんなと感心すると同時に自分はアルコールを飲まないのに俺に付き合ってくれる辺りも優しい。

「上鳴!見ろよこの写真!可愛いだろ?あとこれもよ、可愛いやつ。それからこっちがよ……」

 携帯に保存してある千晴ちゃんと息子の写真を次々に見せてくる。千晴ちゃんの携帯にもきっと切島と息子が一緒にいる写真で沢山埋まってんだろ〜なぁと容易に想像がついた。本当に幸せいっぱいといった切島を見てるとどうしても羨ましさがある。俺もいつか切島のように心から好きになる女の子が現れる日が来るのかと少しだけ期待しつつ、切島の惚気話を聞くのだった。

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