フロンティア



 愛する息子へ

 お前がこれを読んでいる時、私は生きていないだろう。
 私は開拓した惑星ミノスで、誤って防護服を脱いでしまった。知的生命体を見たことで、衝動的なものだった。
 そこに住んでいれば当然の病だとしても、その耐性がない我々では、すぐにやられてしまうのだ。それは地球でも変わらない。
 だから我々は、他の惑星に下りても防護服を脱いではいけないという決まりを制定していたのだが、分かるだろう。私はその禁を破ってしまったのだ。
 この惑星ミノスの姿をお前に見せてやりたかったが、私が直接見せることはできないようだ。
 現地のウィルスにやられた私の身体では、長期航海に耐えることなどできない。よくて、冷凍した私の死体がお前の許に届くのだ。
 詳しい調査書は、スペースクラフト〈フロンティア〉の乗組員に、この手紙と共に渡してあるから、興味があるならば読みなさい。

 この手紙が届く頃、お前は高校生になっているのだろうな。
 私が知るお前は、人とコミュニケーションを取ることを得意としていなかったから、お前に友達ができたのか、とても心配だ。
 だがしかし、最後に顔を見たのは、お前が本当に小さい頃だったからなあ。本当に小さくて、どう接したらいいのか分からず、戸惑っていたんだ。お前は私の顔すら覚えていないかも知れないがな。
 もし私が宇宙飛行士でなかったら、もし私が宇宙開発員でなかったら、お前の成長を見ていられたのだろうか。だが、私には、宇宙に出ていない私というものが想像できなかったのだ。
 宇宙は私にとって夢であり、浪漫であった。その意味が、お前には分かってもらえると信じているよ。

 それにしても、お前には「天から見守っているよ」と言いたいところだが、我々が宇宙に飛び出してしまったために、〈天〉の定義があいまいになってしまったね。
 重力に縛られ地上にいたころから、人間はずっと高い高い空を見上げてきたのだろう。
 決して手の届かない空を見て、あそこにはきっとすごいものが住んでいる、創造主が住んでいるのだと、空に希望を抱いてきたのだ。
 けれど、我々人類は空に夢を見続け、ついに地球が持つ空を越え、宇宙へと飛び出してしまった。
 確かに、主は宇宙をもお創りになったお方だ。だから天とは、生身の我々では一生到達することのできない場所なのだろう。
 おかしいだろうか。私はずっと主を信じているのだよ。
 お前が生まれてくれたのも、主の御心のままだと思っている。だから接し方が分からなかったと言っても、お前のことが愛おしかった。
 お前を抱いた記憶は、私のかけがえのない宝なのだよ。

 だから、私はあえてお前に言おう。
 「ずっと天から見守っているよ」
 神様のいる世界で……。

父より 
追伸:これは書斎の引き出しにしたためておいた遺書とは別のものであり、私の意思に変わりはない。

(20121114)
fish ear様提出作品


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