晴れの日



 白のグラスワインを呷った私のそばに、スーツを着た司会の女性がやってくる。
「ではお願いいたします」
「分かりました」
 私は席を立ち、緑のロングマーメイドドレスの裾をはためかせながら、打ち合わせ通りの位置についた。
「孝幸(たかゆき)さん、美希さん、この度はご結婚、おめでとうございます。本日はこのようなめでたい席にお呼びいただけて、本当に嬉しく思います」
 そう、ここは大学時代の〈友人〉美希の結婚披露宴会場のホテルなのである。ピンクのドレスに身を包んだ美希と目を合わせてから、会場の人たちに一礼をした。そして小さな原稿を手に、高鳴る鼓動を抑えながら、口を大きく開けた。
「私は、新婦・美希さんの大学時代からのお友だちで、佐伯智花(ともか)と申します。私と美希さんとの出会いは、入学式の時、学籍番号が隣だったから、美希さんから声をかけていただいたことがきっかけです。私は美希さんを見て、鼻が高くて綺麗な人だなぁと思いました」
 今でもはっきりと思い出せる。それまで私は、出席番号が近かったり、最初の席が近かったりした人たちとは、あまり仲良くならなかったから、美希ともきっとそのうち疎遠になるだろうと思っていた。けれど、在学中はもとより、卒業して二年が経った今もこうして仲良くしてくれている。それは嬉しいことだし、尊いことだ。
「大学のときは、たくさん買い物に行ったり、旅行にも行ったし、勉強も発表会の準備とかも、たくさん一緒にがんばったね。その分喧嘩もそれなりに多かったけど、美希さんとの大学生活は、かけがえのない大切な、楽しい思い出として記憶に残っています」
 そう、本当にしょうもないことで喧嘩をしたのだ。それもしょっちゅう。だけど、必ずお互いに謝って仲直りをしていた。きっかけはあるかもしれないけれど、片方だけが完全に悪い喧嘩は、少なくとも私たちのあいだでは、なかった。
「私が誰かにそばにいてほしいときも、電話をしてくれたり、会いに来てくれたりしていましたね」
 私のスピーチに耳を傾ける美希の目をじっと見た。
 そう、失恋して気がおかしくなりそうだった夜に、ものすごく心配して電話をかけてくれた。私はたくさん泣いたけど、そのとき本当にひとりぼっちにならなくて良かったと、心から思った。
「それは社会人となって別々の道を歩き始めた今も、変わりません。美希さんはとても友だち想いの、本当に優しい女性です。そんな大切な友だちの、人生で一番美しい姿を見ることができて、私は本当に幸せです」
 もちろん、美希が今着ているピンクのドレスも素敵だ。バラの飾りが散りばめられて華やかで、ふんわりとした柔らかい雰囲気が美希にぴったり合っている。
 けれど、聖歌隊の歌と共にチャペルに入場した美希の姿は、本当に本当に美しくて、涙をこらえることができなかった。私も大好きな〈お友だち〉の結婚式だから、できうる全てをかけて一番美しい姿で来たけれど、清らかな純白のドレスをまとった美希は本当に美しかった。
「私は孝幸さんがどれほど優しいかも知っています。美希さんと孝幸さんのお二人なら、きっと素敵な家庭を築いていけるでしょう。どうか二人とも、お幸せに。みなさん、ご静聴、ありがとうございました」
 一礼をして、もう一度美希を見た。美希は白いハンカチを目元に当てていた。それを見届けて、マーメイドドレスの緑をひらひらさせながら自分の席に戻る。友人席のお友だちが口々にスピーチの感想を言ってくれた。
 今日の美希は本当に美しい。彼女の人生で、きっと一番美しい。私はその美しさを目に焼き付けるのだ。

(20160622)


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