そこは内陸の小さな町。
ほとんどの人は都会へ行くことなく、死ぬまでその町で生きていく。
そんな小さな町の、小さな木造の一軒家に、青を纏う、明朗な女性がいた。
彼女を彩る爪や、ピアスや、バレッタ、ワンピースに靴も、全てが青だった。
青、蒼、藍、碧――つま先や洋服の裾から広がる無数の青は、空ではなく海の色。
深海から南国の浅瀬まで、彼女は全身でくまなく表現していた。
海を纏う人
なぜ海なのと聞いたら、彼女はこう答えた。
「ここから海は見えないでしょう? だから、海を夢見るの。海を夢見て、海を纏うの」
だから本物の海は絶対に見ないのだと、彼女は言った。
300字SS企画
お題『飾る』
(20170309)