未熟者



 ガシャン!
 古ぼけた工房から、景気のいい音がする。陶器が割れた音だ。
 工房の中でその一部始終を見ていた勇人は、激しく衝撃を受け、壺を割った張本人に喰ってかかった。
「ちょ、師匠! なんでコレ割るんですか!? 自信作だったのに……」
「バカタレ、どの口がそれを言うか!」
 ベシッと平助師匠に頭を叩かれた。勇人はそこを両手で押さえ、「いてぇ」と呻きながら恨めしそうに平助師匠を見た。
 そもそもの発端は半年前。元々陶芸が好きな勇人は、小中高大と陶芸部に所属していた。腕前としては申し分なく、大会に作品を出せば最優秀賞とはいかないまでも、それなりの成績を収めている。
 勇人は就職しても、趣味の一環で茶碗を焼いたりしていたのだが、そんなある日、後継者を探していた平助師匠の目に勇人の茶碗が留まったのである。平助師匠から、焼き物を生業にしないかという誘いがあり、まさか好きなことで食っていけるなどという夢のような出来事をみすみす逃すはずもなく、平助師匠の口車に乗ったのだが……。
 言うまでもなく、これが現状である。珍しくうまくできた茶碗は平助師匠に割られ、いつも罵詈雑言を受けている。このままでは自分は何時まで経っても陶芸家にはなれないのではないかと思っていた。陶芸の為に仕事を辞め、身一つで弟子入りしたというのに。
「なんだその眼は? 小僧、なんでバカタレかわかっとらんのか?」
「わかりませんよ。上手く焼けたのを目の前で無残にも割られたんですよ? それなりの理由ってもんを聞きたいですよ」
「なんだと!? 小僧、貴様そこまで大馬鹿者だったとは思わなかったぞ、このヒヨッコが!」
 また怒鳴られ、勇人は身を縮こまらせた。平助師匠は大きなため息を一つ吐くと、残骸を指さした。
「いいか小僧。ヒヨッコがヒヨッコのままでうまく焼けたモンなんてなぁ、俺から見りゃ見るに堪えない未熟モノなんだよ! イライラして割りたくならぁ!」
「う、すみません。精進します」
「そうだわかればいい。さっさと次のモン作りやがれ! そもそもお前は、粘土のこね具合がぬるいんだよ!」
「はい!」
 そこまで言わせるとは、まだまだヒヨッコと言うのもおこがましいというものだ、と勇人は思った。まだまだ卵だ。それも、どこぞに産み落とされたばかりの。
 いつか、平助師匠が割るのも惜しくなるほど見事な焼き物を作ってやる。勇人はそう心に誓った。

(20110713)
赤点回避様提出作品


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