夕焼けの瞳
起きるとそこに、素っ裸で寝ているカリムの姿があった。
そういえば夕べは、むしゃくしゃしていたので、カリムを抱きつぶそうと思って抱いたのだ。カリムにしては、いい迷惑だろう。今日は休日だから、ラギーは起こしに来ないだろうが、早く処理をしたほうがいい。それにしても、レオナがあんなことをした後だというのに、安らかな寝息を立てるその姿には、苛立ちさえ覚える。
「おいカリム、起きろ」
「ん……もう朝か」
「そうだ。ったく、さっさとシャワー浴びて服を着ろ」
「ああ、そうだな」
部屋に漂う事後のにおいをどうにかしなければ。そんなことを考えながら、目にかかる前髪を掻き上げた。
シャワーから戻りたどたどしく身繕いをするカリムを見ながら、
「俺は……お前をめちゃくちゃにしてやろうと思ったんだ」
ぽつりと呟いた。
カリムのことが気に入らなかった。底抜けの明るさも、無邪気に笑うところも、面倒見がいいところも……そして、一緒にいて居心地がいいと感じてしまうところも、何もかも。だからめちゃくちゃにしてやろうと思った。それなのに、いざカリムと向き合うと、故郷の夕焼けを思わせるような目に見透かされているような気がした。いい思い出なんかない故郷。それでも、愛しい故郷。
少しの沈黙の後に、カリムが口を開く。
「でも、レオナは優しかったぞ」
カリムのゆったりとした声は、弟たちに語りかけるように優しい。
「オレのことめちゃくちゃにしようと思ったのは本心かもしれないけど、レオナはオレのこと傷つけなかっただろ?」
「笑わせるなよ」
知っている。カリムの細い腕を抑えるのに、ほとんど力を込めていなかったこと。腫れ物を扱うかのごとく触れたこと。カリムはほんの少しも抵抗せずに、「怖がっている」とレオナに感じさせることもせず、レオナを受け入れたのだ。
「お前のことは気に入らねぇ」
「ああ」
けれどそれはきっと、はっきりとは嫌いになりきれない故郷への想いと似ているのだろう。憎んでも離れられないあの草原と、故郷を思い出させる夕焼けの虹彩とを重ねながら、ぼんやりと考えた。
カリムは「じゃあな」と笑いながら、絨毯に乗って飛んでいった。