兄妹喧嘩


 見るからに落ち込んでいる様子のジェイクを見て、フォルカーは思わず声をかけた。
「何かあったのか、ジェイク?」
「フォルカー。こっち来て一杯つき合えよ」
「そりゃいいけどよ、どうしたんだ?」
 隣に座ったフォルカーに、ジェイクは盃を渡し、酒を注いだ。一献かたむけると、ジェイクが物々しく口を開く。
「実はな……ブリッタに『大嫌い』って言われたんだ」
 とてつもなく深刻な声と内容とのギャップで、フォルカーはむせた。
「なんだ、その反応は?」
 目に涙を浮かべながらひとしきり咳き込んだフォルカーは、笑いながら「悪い悪い」と右手を挙げる。
「いや、あんまりにも暗い顔をしているからどんなことかと思ったら、なんだ、そんなことか!」
「そんなこととはなんだ。俺は本気で気にしているんだ」
「悪かったって。で、なんでそんなこと言われたんだ?」
「それがだな……」
 兄妹でじゃれ合っていたのだとジェイクは言う。くすぐりあいこをしていて、ブリッタが「もうやめて」と訴えたのに、ジェイクは更にくすぐった。そこで怒ったブリッタが「もう、兄貴なんて大嫌い!」と抵抗したのだそう。
 聞けば聞くほど笑いたくなったが、ジェイクがいやに真剣なので、フォルカーは懸命に笑うのを堪えた。
「お前がしつこくしたのが原因だろ。あとでしっかり謝っとけよ」
「ああ、そうするよ」
「なるべく早くしろよ。砂糖菓子でも持って行ってやれ。ブリッタも年頃なんだから、あんまりしつこくすると本気で嫌われるぞ」
「ああ、そうだな」
 うなずいて、ジェイクは盃を呷った。
 その翌日、フォルカーは嬉しそうな顔で砂糖菓子を抱えたブリッタを目撃した。



戻る

Written by @uppa_yuki
アトリエ写葉