ジャスティスブリンガー


 剣を志して旅に出る、と言うジェイクに、ブリッタは当然のように付いて行った。兄によく懐いていたのは勿論のこと、兄のやること為すことが格好よく映る年頃だったというのもある。だから兄の真似事をして、木の棒を剣に見立てて振る練習なんかにも励んだ。
 そんなある日のこと。滞在先で出かけていた兄が、見たことのない立派な剣を携えて戻ってきた。いいな、かっこいいな、これから兄貴はその剣で戦うのかな、なんて思っていると――。
「ブリッタ、そろそろ木の棒を卒業するか。毎日真面目に素振りを頑張ってるみたいだし、様になってきたじゃないか」
「本当?」
「ああ、本当だ。ほら、本物だぞ」
「わあ……!」
 ジェイクから、鳥の翼を象った鍔が一際目を引く、それはそれは立派な剣を差し出され、ブリッタは目を輝かせながら受け取った。
「お前のために打ってもらったんだそ。格好いいだろう? ジャスティスブリンガーっていうんだ。その鳥は不死鳥だぞ。不死鳥斬! ってな」
 木の棒よりもずっしりと重い剣を鞘から抜き、太陽の光を反射する剣身を見つめる。これが本当に自分のものになると思うと、胸が高鳴った。
「うん、すごく格好いい! ありがとう、兄貴!」
「お前も、その剣で困ってる人を助けるんだぞ」
「うん!」
 兄の言っていることは漠然としか理解できていなかったが、兄から格好いい剣をもらったことが何より嬉しくて、鞘に収めた剣をブリッタはとても大事そうに抱きしめた。



 手入れのために剣を鞘から抜き、前に掲げてまじまじと刃を眺める。もらった時から手入れは欠かしていないし、今は定期的にラクチに見てもらっている。手にはよく馴染んでいるし、状態もいい。
「そういえば、兄貴が言ってたんだっけ」
 困ってる人を助けるんだぞ、と。
 方舟に来るまで、なんならフォルカーと以前のように話せるまでは自分に余裕がなかったらしく、そういうことを言われたのを忘れていた。ただ、剣を振る時は正しいことのために、正しいと思うことのために、困っている人を助けるために、誰かを守るために――そういう想いだったのは確かだ。
 思えば兄ジェイクは、正しいことのために、困っている人のためにためらいなく剣を振ることのできる人物だった。その兄が「ジャスティスブリンガー」などという大層な名前の剣をブリッタにくれた。兄自身、単純に「格好いいから」と思ったのかもしれないし、「妹にもそうであってほしい」と願ったのかもしれない。両方かもしれない。それを知る術は、もはや存在しない。
「この剣で、困ってる人を助ける、か……」
 剣をもらった時よりはずっと強くなったように思う。以前なら勝てなかったモンスターを倒すことができるようにもなった。
 もっともっと強くなる。この剣で困っている人たちを助けたい。それができる程度には力をつけた。あとはどうすれば、この剣に相応しい剣士になれるだろうか。
「まったく、大袈裟な名前なんか付けちゃってさ」
 はは、と苦笑して剣を収めた。



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Written by @uppa_yuki
アトリエ写葉