ジェイクの妹


 青い空を白い雲が流れていく。心地よい風が髪を揺らし、鳥のさえずりが耳をくすぐる。そして、湖に垂らした釣り糸はピクリともしない。
「今日はさっぱりだなぁ」
 釣りを始めて数刻になるが、何度目だろうか、ジェイクがそんなことをぼやくので、「全くだな」とフォルカーもうなずいた。
 ジェイクとはたまにこうして釣りをする。下手くそなのか、釣れない日の方が多いが、ジェイクと一緒なら少しも退屈ではなかった。ここまで気の合う人物はジェイクくらいのものだ。
 ジェイクと出会ってからは、ジェイクが妹に剣の稽古をつけるのに付き合っている。華奢だが剣を振るう様は一丁前で、前のめりなところが気にはなるが、将来が楽しみな程度には筋がいい。あまりに動かない釣竿を見ながら思い出し、フォルカーは彼女のことを口にした。
「お前の妹、思ったより可愛いな」
「思ったよりってどういうことだよ?」
「澄ました顔で俺の子分を殴り飛ばすようなヤツの妹だぜ、どんな厳つい子だと思うだろう?」
「てめぇ!!」
 竿を放置しジェイクがフォルカーに掴みかかる。フォルカーも竿から手を離し、ジェイクに倒されながらも応戦した。

 ひとしきり殴り合って満足して、肩で息をしながらふたりで大の字になって寝そべって、何故だかおかしくなって笑っている。呼吸が落ち着いた頃、ジェイクは語り始めた。
「ブリッタはさ、昔っから俺の後ろばっかりついて回ってたんだ。そのままこんなところまで付いてきてよ、可愛いもんだろう? 俺の真似して剣を覚えて。こんな世の中だし、戦う術を知るのも悪くないと思って、筋も良かったから稽古を見てやってるんだ。でもお前も知ってる通り、あいつは向こう見ずで負けん気が強くて、おまけに誰に似たんだか、困ってるやつを放っておけなくて……」
「そりゃお前に似たんだよ」
「はは、違いない。……だから危なっかしくってなぁ。お前も時々でいいから、ブリッタのこと気にかけてやってくれよ」
「お前の妹だぞ、当たり前だろ」
 すまねぇな、と笑ったジェイクがこの時ばかりは気に障った。そんな時、放置している釣竿がピクピク動いているのが見え、フォルカーは飛び起きた。
「おいジェイク! お前の竿だぞ、ほら早く!」
「おっと!」
 竿を取ってすぐ、「逃げられちまったよ」と残念そうにジェイクは笑った。



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Written by @uppa_yuki
アトリエ写葉