釣りをする


 釣れないとつまんないね、とブリッタは唇を尖らせた。
「ま、まあこんな日もある。気長に待っていればそのうち釣れるさ」
「でもフォルカーは、昔っから『今日もボウズだ!』って何回も言ってた気がするけど」
 確かに釣れたら楽しいだろう。実際、フォルカーのことで塞いでいた時にイネイドに誘われてアートルトラウトが入れ食い状態だった時は、悩んでいることを忘れるくらい楽しかった。――魔物にさえ襲われなければ。だがそのおかげで、フォルカーとちゃんと話すことができたし、今こうして一緒に釣り糸を垂らしていられる。
 何も釣れない時間はブリッタに様々なことを考えさせるが、穏やかな風や、近くの木の葉が揺れる音、それに、隣で大きなあくびをするフォルカーの存在……そのどれもが、ブリッタにとって幸福で、大切なもののように思える。
 しかし、それにしても釣れない。フォルカーは『今日の飯は山盛りのアートルトラウトだ』などと大きな声で宣言していたが、この様子だと無理な話だろう。
「準備運動しといた方がいいかな? イノシシ捕まえる」
「おいおい、まだ終わってねぇだろ」
 カラカラと笑って見せれば、フォルカーもフッと笑った、その瞬間。
「あっ、フォルカー!」
「おっと!」
 フォルカーの竿が反応している。大きそうだ。どうやらイノシシ狩りは、今回はお預けのようだ。



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Written by @uppa_yuki
アトリエ写葉