いつものお礼
フォルカーがチョコをもらう時、渋い顔をしていると聞いた。そうは言っても、お世話になっているみんなに渡しているものをフォルカーにだけ渡さないなどということもできない。それに……。
(フォルカーには一番お世話になってるのにな)
フォルカーは兄ジェイクの代わりになろうとしている。ブリッタにとっては、気にかけてもらえることそのものが単純に嬉しい。いつでも誰かに見ていてほしいのだ。そういったことについて感謝の気持ちを伝えるには、とてもいい機会だというのに。
テラスでひとり黄昏ているフォルカーを見つけ、ブリッタは背後から忍び寄り、「フォルカー!!」と思い切り肩を叩いた。
「うおっ!?」
振り返ったフォルカーは、「なんだ、ブリッタか……」と溜息を吐いた。
「はい、これ」
菓子の入った包みを渡すと、なんとまあ、聞いた通りの反応をしてくれた。分かっちゃいたが、ムッとして唇を尖らせる。
「悪かった。苦手なんだよ、こういうの」
「うん。でも、お礼くらいはさせてほしいよ。フォルカーにはいつも守ってもらってるから。ありがとう、フォルカー」
こういうことは笑って言ったほうがいいに決まっているのに、フォルカーにつられてしかめっ面で言ってしまい、なんだか居心地も悪くなってしまった。
「そうだ! フォルカー、それ早く開けてよ。あたしの好きなお菓子なんだよ」
急かすと、「しょうがねぇな」と渋々包みを広げた。中身を見て、フォルカーは一瞬驚いた顔をしたのち、優しい表情になった。
「ああ、そういや、ジェイクとお前と、三人で食べたっけ」
菓子をひとつつまみ、口へと運ぶ。
「悪くないでしょ?」
「そうだな。酒もありゃ完璧だ」
さすがにそれは無理、とブリッタもようやく笑った。
〜後日談〜
結果として、苦手に思っていたけれど、バレンタインという日にたくさんの菓子を受け取ってしまった。これは全部にお返しということをしないといけないのだろう。適当に菓子を選んで、当日配っていると、「三倍返しでしょう」とか「ちょっと好みじゃない」などと言われる始末である。まったく、こっちの気も知らないで。
そんな中、お返しを催促するでもなく普通に方舟を呑気に歩き、フォルカーの姿を見るといつも通りに「おはよう!」と元気に挨拶をするブリッタの姿を見て、フォルカーは思わず「あ!」と声を上げた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇ!」
頭上に疑問符を浮かべるブリッタを残し、フォルカーは走る。
そいういえば、ブリッタにはまだ何もお返しをしていなかった。本当は昨日までずっと考えていたのだが、年頃の女の子が何を欲しがるか、よくわからなかったのだ。なんとなく、ブリッタには適当なものをあげたくなかった。だから菓子の好きなクロウにでも聞こうと思って、忘れてしまっていた。
クロウの姿を見つけ、フォルカーはクロウを呼びつけた。
「どうしたんだ?」
「なあ、バレンタインのお返しってのは、どんなもんがいいのかね? よくわからなくてよ、頼む! 教えてくれ!」
「でもフォルカー、さっきお返ししてただろう?」
「そうなんだが……」
なんだか不評だったという話をすると、クロウは控えめに笑った。
「でも俺は、あんまりこの世界のおいしいお菓子のことは知らないし……イロンデールのほうが知ってそうだけど」
「そうだよなぁ……」
「あ、でも、セレネイアで食べた砂糖菓子はおいしかった。そういえばエルネストが立派な焼き菓子を配ってたけど……」
「それだ!」
そういえばかなり昔だが、ブリッタが街の有名な店の焼き菓子を食べてみたいと言っていた。有名な店なのだから、街に行けばあるはずだ。
「ありがとな、クロウ! 早速行ってくる!」
「あ、ああ」
そんなこんなで、慌てて焼き菓子を買い、方舟でブリッタを捜す。ブリッタはすぐに見つかった。
「ブリッタ!」
「あ、フォルカー。どうしたの? 朝から様子が変だけど」
「ほら、この間菓子くれたろ? そのお返しだよ」
ブリッタは「お返しなんていいのに……」とすこぶる微妙な様子だったが、フォルカーから包みを渡されるや否や、目を輝かせた。
「えっ、これっ!」
包みとフォルカーを交互に見やり、ブリッタはにこにこしている。
「ありがとう! このお店のお菓子、ずっと食べてみたかったの! うわぁ、嬉しい。本当にありがとう! 大切に食べるね!」
それはそれは嬉しそうな様子なので、フォルカーも嬉しくなった。
「気に入ったら、またいつでも買ってきてやるからな」
頭を撫でると、嬉しそうな顔がすぐに不服そうな顔になった。
「うん、気に入ったらね」
頭を撫でたときに不服そうな顔をするのはいつものことなので、フォルカーは気にしないようにした。ただ、その直後にやはり嬉しそうに、大事そうに菓子の包みを持っている姿を見て、ほほえましく思った。