全くもって運がない。今日は始業式。新一年生が入ってきたりするのに私はと言うと始業式に間に合わず遅刻である。いつもと同じ時間に家を出たにも関わらず家から駅までのバスがこれでもかと言うくらい混んでいてひとつ見送ったら、次のバスがそれはもうめちゃめちゃ遅れやがった。何とか駅に着いたと思ったら痴漢に合い事情聴取をされて、はいもう遅刻決定、てな感じで今完全に閉まっている校門の前に居る訳で。
「さすがに空いてないか〜」
ぽいっ、と内側に鞄を投げ込み、よいしょ、と言いながら校門をよじ登る。先生に見つかりませんように! なんて考えながら無事校内に入る事に成功した私はさっさと教室に向かおうと鞄を拾い上げた。
教室に向かう途中小さな生き物を発見する。ねこでもいぬでもうさぎでもない。なんだ?と思いしゃがみこむと小さな生き物はビクッと身体を跳ねさせた。最近は不思議なペットが居るんだなぁと思いながら「大丈夫?」と声を掛けると、少し泣きそうだった表情が和らぐ。まあこんなところでひとりぼっちになってたら悲しくもなるよね、と「飼い主さん探そっか」と声を掛けて拾い上げる。ふわふわのぬいぐるみみたいな生き物はこくんと頷いて行きたい方向を差してくれる。
「あっち……は、一年の教室ってことは、君の飼い主さんは一年生なんだね」
入学したばかりなのにペットを連れて来て、はぐれて、大変だなぁ、と「君も今日はついてない日だね」と話し掛けながら目的の教室の前、よく考えたらこのタイミングで教室を開けて連れてきました!っていたら没収されかねなくない? と思い教室の前で立ち尽くす。もし飼い主さんがこの子が居ないことに気づいているなら授業が終わった瞬間飛び出して来るだろう、と予想して、少しズレた場所に座り込む。
「そだ、お菓子食べる?」
鞄の中からクッキーを取り出し差し出すと嬉しそうに頬張る姿が可愛らしくてニコニコになってしまう。
「かわいいねぇ、いっばい食べていいよ」
クッキーを頬張る姿を見ながらスマホを開いて時間を確認する。もうすぐ授業が終わる。そしたら窓際の生徒さんを呼んで……とシュミレーションしていると、チャイムが鳴る。それと同時にすごい剣幕で教室から出て来るオレンジの髪の背の高い男の子。絶対あの子じゃん。絶対この子探してるでしょ。若しくはうんこ。
「あのっ」
「え?」
私の声を立ち止まる男の子。スッとクッキーを頬張っている姿を指差すとぱっかりと口を開けて「キリンちゃん!!」と大きな声を出した。
この小さな生き物はキリンちゃんと言うらしい。男の子、宇佐美リトくんは入学式の時までちゃんと居たのに、教室に向かった途端居なくなっていたキリンちゃんに気付いてもう気が気じゃなかったらしい。まあでも良かった、無事に会えて。
「ほんとに助かりました」
「いえいえ〜。うさみくんに会えて良かったね、キリンちゃん」
指先で頭を撫でてあげると嬉しそうに笑うキリンちゃんにメロメロになっていると、うさみくんが紙にガリガリと何か書いて、私に渡す。
「今度お礼させて下さい。あと、なんかキリンちゃんめちゃくちゃ懐いてるから、迷惑じゃなかったらたまに遊んでください」
渡された紙には連絡先。その紙をポケットに入れて、うさみくんを見上げる。
「おっけ〜。後で連絡するね」
ひらひらと手を振って自分の教室に向かいながら頭の中はキリンちゃんの事でいっぱいだった。
「渡辺、お前遅刻にも程があるだろ」
「えへへ、困ってる生き物助けてたら遅刻しました」
「たまには先生も助けて欲しいよ」
「頑張りますね〜」