▷ そんな君に即答(雪兎)
もう何回目かの席替えがあった。
わたしは月城君と急接近、なんてうまいこといくわけはなく、いままで通りの距離感でおしゃべりをしているだけだった。それでも、おしゃべりできてるだけでわたしはすごく幸せ。
「おい森下」
「き、木之本君!」
それはある日の朝だった。
月城君と仲よくなったわたしだったけど、いつも月城君といっしょにいる木之本君とはまったく話したことがなかった。
「ゆきから伝言」
「……伝言?」
そうか伝言か、とはじめは納得したもののどうして木之本君にわざわざ伝言をたくしたのか。ていうか伝言って何なんだろう。
「きょう急に試合の助っ人頼まれて、朝から放課後まで帰ってこれねぇからって伝えてくれって」
「?」
「放課後、ちょっと待っといてほしいんだと」
別に何の約束もしてないのに、急に放課後待っててほしいだなんて。
確かにわたしと月城君はお互いの連絡先を知らないから、月城君がこの伝言を木之本君に頼んだのはわかる。
きのうにも伝えられたのに、きょういきなり言わなきゃダメだったことなのか、謎が多い。
そして一日中そんなことを考えていたら、あっという間に放課後になっていた。
わたしはとりあえず教室で待っていようと思って、なんとなくふらふらと窓際のあたりを歩きまわっていた。
すると駐車場からだろうか、バスのエンジン音が聞こえたから窓から外をのぞいてみたら、今日月城君が試合の助っ人をしに行ったクラブの部員達がグラウンドの側に集まっているのがわかった。
じーっとその集団をみてみたけど、そのなかに月城君はいないみたいだったから、もう月城君はこっちに向かって来ているんだろうと思ってわたしはちょっとドキドキしていた。
戸が開く音がして振り向けば、そこには相変わらずの素敵な笑顔をみせてくれる月城君がいた。
「ごめんね、待っててなんて言っちゃって」
そう言いながら月城君は窓際にいるわたしのほうへ近づいてきた。
「全然!それで……待っててほしいって何だったの?」
わたしが質問すると、月城君は鞄の中から何かを取り出してわたしに向かってそれを差し出した。
「はい、これプレゼント」
「……プレゼント?」
「きょうは森下さんの誕生日だから」
そんなこと、月城君がどうして知ってるんだろう。
わたしはきょうが自分の誕生日ってことを忘れてたわけじゃない。ただ、高校生にもなると自分の誕生日がそれほどのイベントじゃなくなるからなのか、誕生日なんて気にしていなかった。
もともと記念日とかいうものにわたしは無頓着だったし。
「なかにメッセージカードが入ってるんだ」
「あ、えっと……これかな?」
月城君に言われて取り出したメッセージカードには、月城君の綺麗な字で一言、「森下さんが好きです」と書いてあった。
「それはぼくの気持ち」
わたしは月城君の言葉が信じられなくて黙っていた。
それから月城君はわたしの頬を撫でるみたいに包んで、親指を滑らした。
「返事、聞かせてくれな「好きです……っ!」
自分でもびっくりするくらいの速さで、わたしの口は正直に返事をしていた。
「わたしも、月城君のこと……っ」
次の瞬間、目の前には月城君の胸元があって、抱きしめられてるんだってわかった。
その胸元から月城君の心臓の音が聞こえてくるのが、まるで夢みたいだと思った。
「……夢なんかじゃありませんように」
わたしはそんな思いが口から出てしまっていたみたいで、月城君に聞かれたのかと思ったら恥ずかしくってたまらなかった。
「ぼくも同じこと考えてた」
そんな月城君の一言にわたしの頬は真っ赤になっていく。
「森下さんの言ったこと、夢じゃありませんように…って」
でもやっぱり、月城君の声がこんなにも近くで聞こえるなんて、夢じゃないのかな。
そんな君に即答
(……これ、髪どめ?)
(森下さんに絶対似合うと思って……ほら!似合ってる)
(か、髪さわられちゃったよ……!)
自己満です。title by 虚言症
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