▷ 知りたいことは尽きない(ユエ)




「どうして立ったまま眠れるの?」

 ずっと前から気になっていたから、思い切って聞いてみた。

「どうしてっていうより、なんで?」

 人間じゃないから、なんてはずないと思う。正直全くわからないけれど、カラダのつくりみたいなものは、わたし達とさほど変わらないと思うし。

 わたしは小さな子どもが駄々をこねるように相手の手首を掴んで揺らした。

「ぼっ、ぼくにはわからないよ!」
「………………やっぱり?」

 雪兎に聞いてもわかるはずないとは思ったけれど、もしかしたらって期待をしていただけに少しショックだった。ユエになってるときの記憶は雪兎にはないんだから。

———ユエったら、今ここで出てきてくれたらいいのに……。

 わたしは雪兎の腕を掴んだまま横にあるベッドに倒れこんだ。そのままの体勢で雪兎の腕を強くひっぱったら、わたしの横に雪兎も同じように倒れこんだ。

「いったいどうしたの?」

 自分の左側から雪兎の声がきこえて、わたしは雪兎のほうを向いた。
 目の前にいる雪兎の眼鏡は、つけたまま横になっているせいでちょっぴりずれていた。

「……こうやって、正面でユエの寝顔がみたいの」

 それはいままでずっと思っていたわたしの本音だった。

「わたしの背じゃ、届かないから」

———見上げるだけなんておもしろくない。

 わたしは色んなユエの表情が見てみたいのに、いつも下から見上げてるだけじゃ何だか物足りなかった。

「正面から見るのと、見上げるのとじゃ、顔も全然違ってみえると思うの」

 単なるわたしのわがままといえばわがままだけれど。

ユエのこと、ぜんぶ、知りたい」

 目の前にいるのは雪兎だけど、わたしはこの声がちゃんと聞こえているはずのユエに向かって問いかけた。
 少しの間雪兎と見つめ合っていたかと思うと、目の前がパッと明るくなって、眉間にシワをよせているユエが現れた。

「そんなことで悩んでいたのか」

 わたしからしたら結構大きな悩みだったのに、「そんなこと」だなんてちょっぴりひどいと思った。

「ここ最近不機嫌だったのはそれが原因か?」
「うん」

 最近、と彼が発した言葉に、ちゃんとわたしのことみててくれてるんだ、なんて嬉しくなって思わず頬がゆるんだ。
 そうしていたら吸い込まれそうになりそうな綺麗な瞳に見つめられて、気がつけばほんの数センチ先にユエの顔があって。

「これでいいんだろう」

 するとまるで覆いかぶさるようにしてわたしの瞼にすっと唇をよせたユエ。その唇がはなれると、さらさらとした彼の長い髪が垂れて、わたしの頬にあたった。それがむず痒くて「くすぐったい」と言えば、頬を撫でるような手つきで自分の髪をふわりとどかしてくれる。そしてゆっくりとわたしの横に倒れこんだ。

「…………ユエ?」

 わたしの横に倒れこんだってことは、いまからここでお昼寝しようってことだけれど、さっきの瞼へのキスは何だったのか。淡い期待をしてしまっていたわたしは、このとき本当はがっかりした、なんてことはユエには秘密。
 そして当の本人は隣で規則正しい寝息をたてている。

———寝るのはやくない……?

 ユエの寝顔を正面から見るというわたしの願いはたったいま叶ったわけだけれど、せっかくのいい雰囲気はどこかへいってしまった。物足りないままのわたしは衝動的に隣で仰向けになって寝ているユエにキスをした。
 もちろん唇に。

 でも何か違和感がして、さっきキスするのに自然ととじた瞼をひらくと、目の前には光に包まれた雪兎がいた。ユエは仮の姿に戻ってしまったのだ。

ユエったらいっつもそうなんだから!」

 ユエはいつもわたしからはキスをさせてくれなかった。むかっとしたわたしは雪兎の胸を軽くだけれど怒りをこめてポンポンと叩いた。

「よくわからないけど、照れてるんだと思うよ?」
「え……?」

 ユエが照れるなんてはじめて聞いたわたしは動揺が隠せずにその体勢のまま固まってしまった。

「まなみから甘えられると、恥ずかしいんじゃないかな」

 クスクスと微笑みながら雪兎は言った。照れちゃうユエなんて可愛いなと思ったから、「ユエったら可愛いんだから」と口に出してしまいそうになったのを必死で抑えた。
 あとでものすごく不機嫌な顔をした彼に真面目に怒られる、と確信したから。

「じゃあ貴方からキス、して?」

 それならいいんでしょう、と思って言ってみたもののユエはでてきてくれなかった。このあとも全然ユエがでてきてくれなかったのは、照れてるんだってことにしておく。
 それからわたしはキスを諦めてお昼寝しようと瞳をとじた。

「まなみ」

 ユエがわたしの名前を呼ぶ声に、やっとでてきたかなんて思いながら瞳はとじたまま返事をした。
 そうしたら待ち望んでいた唇にキスをされたのがわかって、嬉しくてにやけそうになるのを我慢した。

「………………」

 それからなぜか沈黙が続いてどうしたものかと瞳をひらいた。
 当たり前だけれど目の前にはユエがいて、なんとなくいたずらな笑みをうかべている。

「してはくれないのか」
「?」

 すぐにはわからなかったけれど、それがキスだってわかった瞬間、わたしは驚きで固まってしまった。
 そんなこと言うならどうしていままでわたしからはさせてくれなかったのか、というか照れてるんじゃなかったのか。

「いつもわたしからはさせてくれなかったから……」
「誰も嫌だとは言ってないだろう?」

 なにそれ、いままで焦らしてたってこと?


知りたいことは尽きない
(貴方の性格、わかってるようでまだまだわかってない)
(だから、もっともっと、貴方のことが知りたい)

(………それで、してくれないのか?)
(すっ、するけど……っ!)




ただなんともない意味わかんないどんなときでもいちゃいちゃしたがるカップル。そんな感じにしたかったんです……。ユエとは恋人、雪兎は友達以上恋人…なの?みたいな関係のつもりです。ちなみにキスを待っているユエは本当はものすごく照れてます。title by 虚言症



 
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