▷ あなたの体温を頂戴(桃矢)

 


「あー…、どうぞあがって?」

 彼を家に招くのは今回がはじめてだったのに、わたしは数日間部屋の片付けをしていなかったことを心底後悔していた。ぐちゃぐちゃとまではいかないけれど、お世辞にも綺麗とは言えない部屋を見られるのは恥ずかしい。

「ごめんなさいね?片づいてなくて」
「いいえ…むしろ生活感があっておれは嬉しいです」

 嬉しいなんて言う桃矢君は変わってるなあなんて思いながらリビングの机にバッグを置いた。

———……っやば……!

 その瞬間、きのう脱ぎっぱなしにしてしまった下着を見つけて、ばれないようにまわりの物を片づけながらさりげなーくその下着を洗濯物カゴに入れた。

 そうしてる間にも桃矢君は腕まくりをしてキッチンに立っていて、手を洗っているのか視線は完全に下を向いていたからたぶんばれてないと思う。

 そもそもきょうは桃矢君が手料理を振る舞ってくれるということで、わたしがお家デートを提案した。桃矢君はどうぞ家に来てくださいと言ってくれたけれど、家には話に聞くお父さんと妹さんがいると思うと気まずいというかなんというか。うちじゃだめかと聞いたら、わたしの微妙な気持ちを感じ取ったのか彼は優しく微笑んで「まなみさんのお好きなように」と答えてくれた。

「へえ……いつもやってます!って感じね」
「そんなに見ないでください」
「どうして?上手だわ」
「……好きな人に見られてると、集中できない」

 さらっと恥ずかしいことを言ってくれる彼は随分と年下だけど、年下なんてことを忘れるくらいわたしをリードしてくれる。でもふと見せる仕草や表情には年相応の子供っぽさがある。
 かっこよくて、可愛い、男の子。

「まなみさんは休んでてください」

 肩をつかまれて言われるがままソファーに座らされて、それから机の上には気がつかない間にあったかい紅茶まで用意されていた。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 うちのソファーはテレビのほうを向いているから、座ってしまうとキッチンが真後ろにきてみえなくなってしまう。休んでてと言われたものの、彼の料理をつくっている姿を見たくて、座ったままそっと後ろを向いた。するとちょうど目があって、少し赤くなる桃矢君が可愛いくって、思わず頬がゆるんでしまって。

「集中できないって言ったの忘れたんですか」
「ここからならいいでしょ?……ダメ?」

 ちょっと怒ったような顔をして、でもそれ以上は何も言ってこないところが彼らしい。
 それから料理が出来るまで、わたしは料理をする桃矢君をソファーから見つめていた。




「おいしかったーっ」

 すべての料理が見た目から完璧で、驚いていたのもつかの間、見た目以上の味のよさにあっという間に全部のお皿を空にしてしまった。

「いいお嫁さんになれるわね!」
「嫁ですか、おれは」
「あら、きっと似合うわよ?ひらひらの新妻エプロン」

 彼は未成年だからお水を、わたしはちゃっかりワインをのんでいて、少しいい気分になっていた。だからなのか桃矢君にちょっかいをかけたくなって、本当はそこまで酔ってはいないけれどわざと酔っ払ったフリをする。

「ねえとーや君……きょう泊まってく?」

 きっと彼は真っ赤な顔をして驚くに違いない。わたしはその顔が見たいのだ。

「そばにいてほしいの」

 自分から腕を絡めて、短いキスをして、名残惜しげに見つめる。

「まなみさん……酔ってるんですか?」
「うーん……ちょっぴり酔ってる、かな?ふふ」

 すると彼は「嘘」、とひとこと言ってわたしに激しいキスをした。突然のことで頭が真っ白になる。

「っ…………桃矢君?」

 座っていたソファーに押さえつけられるように手首をつかまれて、お互いの息が感じられるくらいの距離で見つめられる。その瞬間の桃矢君の表情が色っぽくて、欲情した、なんて、口がさけても言えない。

「そういう意味で、捉えていいんですか」
「……………」
「そばにいてほしい、って言ったこと……っ」

 それから今度はさっきとは打って変わって優しいキスをされる。というか、いつの間にそんなキス覚えてきたの?

「……違い、ますか?」
「……………違、わない」

 真っ赤な顔をして、瞳はわたしをまっすぐに見て、何か訴えるような表情をする彼はあまりに魅力的で、胸が苦しくなった。

「貴方が欲しいの」

 思わず出てしまったわたしの大胆なつぶやきは、ばっちり彼の耳に届いていたようで、真っ赤な顔がさらに赤くなったような気がして。

「教えてください、どうしたら、あなたが気持ちいいか」

 そして覆いかぶさるように倒されて、わたしはあっさりとソファーに沈められてしまった。



「教えて、ください」

 あとはもう、言葉なんていらなかった。


あなたの体温を頂戴
(まなみさん)
(もっと名前、呼んで?)




前作で調子にのったわたしは続編をつくりたくなっただけ。title by マリーゴールドを抱く少女



 
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