▷ そんな君に初恋(雪兎)




 なぜか毎回胸がわくわくする新学期。
 偶然同じクラスになって、偶然となりの席になった月城君。
 転校してきたとき、校内で大人気の木之本君と仲よくなったって女子の間じゃ話題になった。
 それから、いつでもニコニコしていて勉強もスポーツも出来る月城君は、木之本君とならんですぐに学校中の人気者に。

 まあ、わたしみたいな人には別世界の人で、まったく関わりのない人なんだけど。

「森下さん、だよね?」

 学校の帰り道、急に話しかけられたからびっくりしたわたしは大きく肩をふるわせた。

「えっ……月城君……?!」

 ふり向けば月城君がいて、びっくりしないわけがない。何より話したこともないのに名前を覚えててくれたことに感動した。

———いやいや、ちょっとまってよ!

 できればいま会いたくなかった。
 わたしはいきつけのお好み焼き屋さんにひとりで入ろうとしているところだった。

 女子高生が学校の帰りにひとりでお好み焼きなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。
 ひとりでお好み焼き屋さんに行くなんて、そんなの女の子じゃないって思われちゃう。

「森下さんもここよく来るの?」
「……へっ?」

 月城君はお好み焼き屋さんのほうを指さしている。

「……わ、わたしっ、ここのお好み焼き、好きなの……っ」

———はっ、恥ずかしい……っ!

 ここのお好み焼きが好きなことをわたしは馬鹿正直にこたえてしまった。その瞬間自分でも顔が熱いのがわかるぐらい恥ずかしかった。
 すると月城君は、さも当たり前のようにわたしの横にならんでお好み焼き屋さんに入ろうとした。

「ぼくもここのお好み焼きが好きでよく来るんだ」

 お店の中に入るといつもと同じ店員さん達の「いらっしゃいませ!」という元気な声がきこえた。

「いつもひとりで来るの?」
「……ま、まあ……」

 月城君は「いままで会わなかったのが不思議だねー」なんて言いながらお店の中へとずんずん入っていく。

「ぼくもひとりなんだ。よかったらいっしょに食べない?」

 にこりと微笑む月城君に言葉がかえせなくなる。

「……だめかな?」

 なんだろうな、いまの、胸がきゅんとなった。

「……ううんっ、だめじゃないっ」

 わかった、みんなこの笑顔にやられるんだ。


そんな君に初恋
(今度また、いっしょに来ようよ)
(……うんっ)




コミックで帰りにお好み焼きを食べるといってた雪兎さんが気になってしかたなかったら突然おもいついた問題作。title by 虚言症



 
back
top