▷ きみ不足が深刻です(桃矢)




「まなみ?」
「わ!……な、な何?」

 急に雪兎の声がきこえてびっくりしたわたしは、手に持っていた湯呑みを落としそうになった。

「ちょっとまなみ!火傷しなかった?」
「だっ、だいじょうぶだよ……!」

 雪兎は少しあきれたっていう顔をしてため息をついた。いったい何のため息なのかがわたしには全然わからない。

「さっきから何回も呼んでたんだけど……気づかなかった?」

 何回もわたしの名前を呼んでたなんて知らないわたしは、雪兎の言葉が素直に信じられなかった。

「ごめん……全然気づかなかったけど……」
「もー、まなみったら……」

 わたしはきょう雪兎のお家にお邪魔していた。ちなみに桃矢はバイトでいなかった。ここ最近の放課後、桃矢はクラブかバイトで忙しくってほとんど雪兎と2人で遊んでる。

「桃矢がいないと、まなみはずーっと上の空なんだね」
「そんなことないってば!……ていうか桃矢がいないからってどうしてわたしが上の空にならなきゃいけないのよ……!」
「自分でもわかってるくせに」

 どうしてわたしが上の空になるかっていったら、それはわたしが桃矢のことばっかり考えちゃってるからなわけだけど。

「……逢いたいんでしょ?とーやに」
「……それは……」

 もちろん、大好きな恋人には逢いたいに決まってる。彼女ならそれくらい当然。別に逢いたいなんて思ってないっていったらそんなの嘘になるし。

「……逢いたいよ、すっごく……」
「ほらやっぱりー、強がらないの!」

 にこにこしながら雪兎が言うもんだから何だかちょっとイライラしてきた。

「ねぇ、なんか馬鹿にしてない?」
「馬鹿になんてしてないけど」
「嘘!」
「嘘ってそんな……」
「嘘!」

 わたしと雪兎でそんな会話を延々と続けていたら、雪兎の家の電話が鳴った。
 喧嘩はこれでおしまいなんて言いながら、雪兎は立ち上がって電話にでた。
 いったい誰からだろうな、なんて考えながらそれが桃矢だったらいいなって思って期待して雪兎のほうをじっと見つめた。

「よかったね、まなみ。とーやからだよ」

 思いがけない電話の相手に内心ガッツポーズで、雪兎の手から差し出された電話の子機をわたしはゆっくり受け取った。

「桃矢……?」
「おー」

 今日はバイトじゃなかったっけと思ってわたしは自分の腕時計をみた。

「いま電話してもだいじょうぶなの?」
「ああ、家に忘れもんしたからとりにきたんだよ。そのついで」

 ついでなんて自分の彼女に言うもんじゃないし、なんだか頭にきた。それでもうれしいことにはかわりないから今回は許してあげよう。

「ついでね、そっか」

 でもやっぱり悲しいかもと思ったのが声で伝わってしまったのか、桃矢の声がいつもより優しくきこえた。

「嘘だよ、お前の声が聴きたくなった」

 いつもみたいに意地悪言ってくれたらいいのに、こんなときにかぎって優しいこと言ってくれる。

「……毎日学校で会ってるのに?」
「ああ」

 いやいや、優しいのはいつものことだけど、あんまり言葉にはしてくれないから。

「……その言い方ずるいよ」
「もう少ししたら休みとれるから、待ってろ」

 せっかく我慢してたのに。

 そんなこと言われたら、もっと逢いたくなるじゃない。


きみ不足が深刻です
(お休みっていつとれるの?)




自己満だこれ完全なる問題作だどうしましょうか。でも優しい桃矢お兄ちゃんがすきなのにはかわりない。title by 確かに恋だった



 
back
top