▷ きみが愛しすぎるから(桃矢)




 気がついたらおれの右手はまなみの腕をつかんでいた。

「桃矢君?」

 まなみは不思議そうにおれの顔を見ている。
 いますぐその手をはなせばいいものの、それは出来なかった。

 話をさかのぼれば、それはまなみが隣のクラスの男に放課後呼ばれていたからだ。

 まなみはその男、高橋から手紙をもらっていた。
 おれには秘密なのかその手紙の内容は教えてくれなかったが、あきらかにまなみが好きだっていう告白の手紙だろうと思った。
 まなみが好きで、その返事をききたいから放課後に会ってほしいとでも書いてあったんだろう。高橋はまなみと同じ委員会で、いい奴だってみんなからの信頼がある。おれだって嫌いじゃない。
 でも自分の彼女が他の男に言い寄られてると思うと、それはすごく嫌だ。
 まあ、つき合ってる彼女が誰からか告白をされることに心配してるおれが自分自身どうかしてるとも思うが。
 もしかして、なんてありもしないようなことを考えてしまう。

「絶対、告白だと思うけど?」
「ちゃんと断るよ?」

 おれが言いたいことがわかったのか、そんな返事。放課後の教室にいる他の奴らにはきこえないような小さな声で話す。
 ふと、いくら小さい声だからって、ゆき以外の誰にもばれないようにつき合ってるのに教室でこんな会話をしてたら誰かに感づかれないか心配になった。

「不安?」
「……ああ、不安だよ」
「わたしのいうこと信じられないんだ?」

 少しおもしろがってるような顔をして言うからふて腐れてやった。我ながらこの歳にもなって情けない。

「でもそろそろ行かなきゃ、約束の時間すぎちゃうよ」

 まなみはいつの間にかゆるんでいたおれの右手を振りはらってかばんを肩にさげた。

「つき合ってる人がいるって言って断る。名前はふせとくから」

 あくまでもつき合ってるのは秘密だからと言ってまなみは教室の外に出ようとした、そんなときだった。

「森下?」
「高橋君!」

 ちょうど高橋が教室に入ってこようとしていた。まなみが異様に大きい声を出したせいで教室にいた全員が驚いていた。

「森下がなかなか来ないから……おう木之本、いたのか」
「……高橋……」

 おれ達3人と他の何人かの生徒がいる教室になんともいえない空気がながれていた。そしておれは、そのとき高橋がまなみの肩に手を置いたのを見た。
 それを見た瞬間、おれは耐えられなくなった。

 まなみに触れていいのはおれだけだと思ったから、そんな高橋が許せなくなった。

「ごめんね、さがしものしてて……場所、かえよっか」
「高橋」

 高橋には、いやまなみにも悪いが、その時のおれはもうまなみとの関係を隠す気になんてなれなかった。おれ達以外に何人かいたが、それも今はどうでもよかった。

「つき合ってんだ」

 いままでいいふらされるのが嫌でつき合ってるのを隠してきた。

 でも今逆にばれてもいいと思えた。
 まなみが他の男に言い寄られてるのを見るくらいなら。おれ以外の誰かがまなみに触れてるのを見るくらいなら。

「おれと、まなみ」

 おれは慌てているまなみの細い手首をつかまえた。

「こいつはおれのもんだから」

 おれは高橋にそう言って、まなみの手首をつかんだまま教室を後にした。
 何人かいた教室とは違って廊下には人っ子ひとりいなかった。

「ちょっと桃矢く……っ!」

 そこでいきなりまなみにキスしたのは、おれがそうしたかったからだ。

 いっそこの瞬間を誰かにみられてたらいいのに。
 それならもう、まなみに近づく奴はいなくなるだろうから。


きみが愛しすぎるから
(絶対あしたには学校中に噂広がってるよ……)
(いいんじゃねーか?)
(なっ、何がいいのよ!)




久しぶりに書いてたらやっぱりちょっと微妙かな?嫉妬深い桃矢君どうかしてるぜ。title by 確かに恋だった



 
back
top