うさぎ男子




 名前の通り、雪みたいに真っ白な肌はきっと童話に出てくる白雪姫にも負けないくらい美しい。

 名前の通り、彼の優しい笑顔はウサギみたいに愛らしい。



「あ、雪!」
「わあ!ほんとだ!」

 冬休みに入ってあれクリスマスだ何だと言っていたはずが気がつけばお正月、そう、きょうは元日。
 わたしの家族は父親の仕事が年末年始と忙しい職種で、毎年特に親の実家に帰ったりすることもなく、仕事で家にはいない父親をのぞいた家族だけでまったりと過ごすのがお決まりだった。

 でもやっぱりどこかお出かけしたいな、と思ってやってきたのは月城君のお家。

「はい、あったかいお茶」
「………ありがとう」

 急に来て迷惑じゃなかったかと聞けば、おじいさんもおばあさんも旅行でいないから気をつかわなくても大丈夫だよ、と家の中に招き入れてくれた。
 月城君はこたつに入ったまま動かないわたしに何の文句も言わずにお茶を持ってきて、そして自らもこたつに入った。
 机の上に置かれていたお煎餅が目について、チラリと月城君を見ればどうぞ?と笑顔でそれを手渡される。

「食べたそうな顔してた」
「ご、ごめん」
「……何だか今日のまなみはヘンだね、元気が無いっていうか…いつもみたいな覇気がないっていうか……」
「そんなこと無いってば!ほら、元気だよ、元気!」

 月城君が言う通り、今日のわたしには覇気がない。
その理由はすごく単純で、誰もいない月城君の家に2人っきりだということが、わたしから覇気をなくさせていた。
 下心があるわけじゃない、いや、ない事も無いけど、ただ緊張をしているのだ。

「それにしても寒いね!脚はこたつに入ってるからあったかいけど、ほら、背中とか、すごくさむーいっ」

 その緊張を隠すためにわたしはそう言った。
 でも寒いのは本当で、雪が降っているくらいだから外なんかは結構ひどく寒いんじゃないかなと思う。

「あ!」
「ん、何?」
「わたしの上着、どこだっけ?」

 それなら、と月城君に指差された先にはハンガーにかかっているわたしのふわふわとしたあったかいコートがあった。
 わたしが家にあがった時に月城君がさりげなく部屋の隅にかけておいてくれていたらしい。

「部屋の中だけど、寒いから着ちゃうね」
「ああ、なら座ってて?ぼくがとってくる」

 わたしが立ち上がるより先にすっと立ち上がると、ハンガーにかかっているコートをとり、わたしのところまで持ってきてくれる月城君が優しすぎて、申し訳なくなってくる。

「ごめんね、ありがとう」
「どういたしまして」

 笑顔でそう言ってくれた月城君の両手のひらの温もりが、わたしの両肩にコート越しに伝わってくるようで、嬉しくなった。
 あったかいねと微笑めば、そうだねと微笑みかえしてくれる、瞬間がすごく幸せだった。

 そしてちょうどわたしがお煎餅をばりっとかじったときだった。

「しばらくこうしててもいい?」

 消えない両肩の温もりに、どうかしたのかと振り向こうとしたら、自分の頬に月城君の色素の薄い髪が触れた。
 そしてカタリ、と見覚えのある眼鏡がこたつの机の上の目の前に置かれる。

「まなみが寒そうにしてるから、ほら、あったかいでしょ?」

 月城君は頬をわたしの肩にのせて、わたしの顔があるほうの反対側を向いているみたいで、表情まではわからなかったけれどきっと優しく微笑んでいる。
 細い両脚はわたしの身体をはさむように伸ばされていて、腕はお腹にゆるくまわされていた。
 月城君が体重をわたしの背中にかけているのがわかる。

「つ、月城君は寒くない?だいじょうぶ?」
「ぼくはだいじょうぶ」

 そう言ってから動かない月城君はまるで寝ているように静かで、わたしは食べかけのお煎餅を音がたたないように静かにかじった。

 多分寝ているわけではなくて、ただぼーっとしているだけなんだろう月城君に、わたしは思ったことを素直に言った。
 言ったというよりも、心の声が口から出てしまっていた、のほうが正しいのだけれど。

「月城君って意外とたくましいんだね、細いと思ってたから、わかんなかった」
「そっか」
「腕も意外に太いし、肩とかがっしりしてるし、足も大っきい……何cmあるの?」

 クスッと笑った後、内緒と少し意地の悪い声色でこたえる。
 どうしてと聞けば、それも内緒らしい。
 この野郎めと勢いよく身体を動かして、頬っぺたでもつまんでしまえと思ったら、男の子の強い力で横にさせられてしまった。

 こんなに力があったなんて、わたし知らない。

「こたつで寝たら風邪ひいちゃうよ」
「まなみの身長ならこたつにすっぽり入っちゃうから大丈夫じゃない?」
「あ、言ったなー!」
「ははは、ごめんごめん、反応が面白くってつい」

 その時のわたしは2人して寝転んだまま笑いあっているのが本当に楽しくて、時間なんて忘れてしまいそうだった。

「ねえまなみ」
「なーに?」
「こっち向いてくれない?」

 言われた通りに月城君の顔を見ると、いつもと変わらない優しい表情の月城君がいた。
 ただいつもと違うのは自身の身体を支えるように置かれた左腕が右目にちらつくのと、わたしの左手首を床に縫いつけた右腕がわたしの目の前を横切っていることだった。
 俗に言う覆いかぶさられている、ということなんだろうか。

 キスならしたことがある。何度か、数えるほどだけど。
 ついさっきほぐれたはずの緊張がまた襲いかかってくる。

「ぼくが男だって、知らなかったでしょ」

 知らなかった訳じゃない、ただわからなかっただけだよ、とさっきみたいに心の声は口から出てはくれない。

「一応、知っておいて欲しいな」

 そう言うと顔が近づいてきて、ほんの少し触れるだけのキスをされる。
 いままでとは違うように感じるのはなぜだろうか、眼鏡が無いからという訳ではないと思う。

「う、うん」

 そして何事もなかったかのように離れて、隣に寝転んだ月城君は、ぽつりとつぶやいた。

「今度はやめないから」

 やめない、の意味がわかったときのわたしの顔といったら、きっと家族や友人には絶対にみられたくない顔をしていたと思う。
 特に木之本君とか、木之本君とか、木之本君だけにはみられたくない顔。

「いい?」
「…………うん、」

 月城君のお陰でとんだ元日になってしまった本日、わたし達はこたつに入ったままお昼寝をしてしまって、家族との初詣の帰りに寄ってくれた木之本君に起こされたのはいい思い出で。




「ちょっと残念」
「何が?」
「とーやが起こさないでくれたら、あのまま流れでお泊まりだったのになーって」
「お前なあ……」

 そんな会話をしていたなんて、その時既に送ってもらった後で家にいたわたしは何も知らない。




うさぎ男子

(月城君ってウサギみたいだよね、ふわふわ可愛いかんじ?)
(知ってるか森下、ウサギって万年発情期なんだと)
((………当たってるのかも……))
(ん?どうした?)



 友人に「兎って万年発情期らしいよ、オイシイね」と聞いてからずっと書きたかったお話です。元日にupしようと思ったら間に合わず………それに人間じゃなくてもムラムラとかするもんなのかな?謎です。
 そしてヒロインの父親に管理人自身を重ねております。お願いだから年末年始に休みください!


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