うさぎ男子2




 名前の通り、雪みたいに真っ白な肌はきっと童話に出てくる白雪姫にも負けないくらい美しい。

 名前の通り、彼の優しい笑顔はウサギみたいに愛らしい。




「ねぇ、百々子ちゃん」
「何、惚気なら聞かないわよ」
「わたし恋しちゃったかもしれない」
「は?月城君でしょ?今更どうしたの」
「ものすっごいイケメン、ロン毛の」
「うん、…………ってはぁ?!」

 お昼休み、いつでも一緒の百々子ちゃんとわたしは、弁当を食べ終えて、いつもの楽しいお菓子タイムに突入していた。
 そしてわたしは最近あった出来事を百々子ちゃんに素直に相談していた。

「月城君はどうしたの?」
「好き、だけど」
「……そのイケメンが気になっちゃう的な?」
「……うん」

 あんたが面食いなのは知ってるけどさ、と言われるのは毎日なのでなれているけれど、「馬鹿ね、まなみは」と何故か真剣な顔で言われると胸がつまる。

「運命っていうか、何かあるって思ったの」
「ビビビッ!ってやつ?」
「ビビビっていうか、もうズキューンバキューン!って感じ」

 そう、すごく強い運命みたいなものを感じたのだ。





 さかのぼること一週間、わたしはコンビニのバイトを終えて自転車で家までの夜道を帰っていた。わたしはいつも月城君の家の前を通る、あ、決してストーカーとかじゃないからね!
 すると月城君の家の庭に、暗い夜でもはっきりと誰かがいるのがわかった。はじめは月城君がいるのかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。
 じゃあ不審者かもしれない、と急いで帰って月城君に電話しようと思ったら、何故かわたしは自転車を漕ぐのをやめてしまった。

 だってあまりにも綺麗な人だったから。

 不審者、なんて単語はいつの間にか頭の片隅に追いやられていて、じっとその人を見つめてしまっていた。するとその人と目が合って気まずくなったので、思いきって声をかけてみることにした。

「あ、あの!」
「……………」
「……つ、月城君の親戚さんですか?」
「…………親戚なわけじゃないが、親しい間柄だ」

 その人は背丈や肩幅から男の人だとはわかったけれど、長くて綺麗な髪が月城君の髪の色とよく似ていた。

「お前のことはよく知っている」
「あ、月城君に聞いたんですね!恥ずかしいな……」
「一度、こうして逢ってみたかった」

 ふわりと、すごく自然に頬に触れられた。きっと外国にでも住んでいたんじゃないだろうか、ボディタッチがいやらしく感じないし、嫌じゃなかった。

「それと、夜にひとりで出歩くんじゃない……あまり心配させてくれるな」
「あの、っ…………?」

 流れるような仕草に目を奪われていたら、すっと近づいた綺麗な顔、そして瞬間、唇の端に噛みつくような、けれど甘い口づけ。

「すまない」
「…………へ……?」

 短く謝罪をすると、いつの間にかその人はいなくなっていた。その後、キスされてしまったことを月城君に言うべきか秘密にしておくべきか。




「っていう事があったんです、百々子ちゃん」
「……ゴメンねまなみ……」
「ん?何が?」
「キスって、なんのこと?」

 耳もとでそうつぶやかれて、いつもならドキドキしながら可愛く振り向こうと努力するのだけれど、今回は違う。振り向くのが怖くてぐっと目をつむったら頬をつんとつつかれた。

「むっ」
「ふーん……キス、したんだ?」

 どこから聞いていたんだろうか、とか、息のかかっている耳がくすぐったいとか、色々なことが頭の中をぐるぐるとまわる。

「あの、ごめんなさい……」
「別に怒ってるわけじゃないよ、ただ、」
「ただ?」
「危機感、もう少し持って」

 ちゅっ、と耳の後ろで音がしたら、その唇がすうっと肩までのラインをなぞるようにおりていく。

「今回は許してあげる」

 くびすじにじくじくと痛みがはしって、それが何かわかった時にはもう目の前にどアップの月城君がいた。
 ここ教室だよ、と目で訴えてもやわらかいいつもの笑顔で見つめられたら何も言えなかった。

 さくらちゃんにみせるような、そんな優しい表情をして、さっきわたしにした行為は酷くイヤラシイ。

「その人とすっごく親しいからいいけど、ちょっとむかついちゃうかな」
「やっぱり幼なじみか何か?引っ越す前の」
「そんなに彼が気になる?」
「あ、えっと、なんて言うか……」

 言い訳らしいことは何も思いつかなくて、ただあのイケメンの顔が頭の中をちらつく。

「すごく似てたの!」
「………?」
「月城君とその人、すごく似てて……あの、だからって訳じゃないんだけど、すごく格好、良くて……」

 月城君の前じゃ何も嘘がつけなくて、わたしは正直にそう言った。だって本当のことだから、きっと月城君ならわたしの言った事を受け止めてくれるとそう思ったから。

「ふふ、くくく……っ」

一体何が面白かったのか、月城君はこらえるように笑いはじめた。わたし変なことでも言ったかな、と聞けば違う違うと笑顔で答える。

「まなみのそういう素直なところ、すごく好きだよ」

 今日は家で晩ご飯食べていってよ、と付け足して自分の席に戻っていった月城君は間違いなくイケメンだった。「わたしも月城君のことが大好きだよ」とは恥ずかしくてよく言わないけれど、きっと伝わっているはずだ。

「まなみ、結構大変ね」
「何が?百々子ちゃん」
「……わかってないんだったらいいわ」

 そしていつの間にかいなくなって、また戻ってきていた親友の百々子ちゃんに、わたしのくびすじについたあの跡を指摘されるまで、あと数秒。誰がみてもわかるような場所についたその「しるし」のせいでその後一週間はクラスで話のネタにされてしまった。

 そしてその印をつけた当の本人は何故か気を良くして、所構わずわたしのくびすじに噛みつくようにキスするようになった。

 木之本君、今回ばかりは恥ずかしすぎるので助けてください。




うさぎ男子2

(何々、『うさぎは物を齧る習性があります。うさぎ自身にとっては極々自然な行動…』)
(あれ?まなみ、いつもの雑誌買わないの?)
(今日はそれ買いに来たんじゃないの!)
(……『うさぎの飼い方』?あんたウサギ飼うの?)
(ちがーう!)



 管理人は犬と猫しか飼ったことないのでわからないんですが、ウサギって噛み癖ひどいんですか


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