うさぎ男子に出逢うずっと前




 初恋は同じクラスの木之本君だった。




 これはわたしが中学生の頃の話。
 百々子ちゃんとは小学校の頃からの仲で、親友だった。女の子が集まれば、それはもう絶対といっていいほどに恋の話がはじまる。わたしも百々子ちゃんも今日はそれに巻き込まれていた。

「わたし、木之本君の事が好きなの」

 クラスメイトの1人がそんな事を言った。わたしはその一言に一瞬どきりとした。それは周りの子たちもだった。
 木之本君はクラスメイトだけじゃなく学校でイチバンの人気者だったから、みんなといっていいくらい本当にみんなが木之本君のことを好きだった。
 今みたいにはっきりと告げた子、そしてわたしみたいにみんなには言えないけどこっそり想っている子、色んな子がいたから実際どれだけの女の子が木之本君の事を好きだったのかはわからないけれど。

 わたしの親友百々子ちゃんも木之本君が好きだったくらいだ。わたし達2人はお互いに秘密だよ、と好きな人を告白し合い、同じ木之本君という名前が出てしまったけれど、それでもお互い恨みっこ無しだよ頑張ろうね、と友情を深めあったりした。

「実はね、告白したの……先週の放課後に」
「えっ!そ、それで……?」
「今は勉強に集中したいからって……ふられちゃったの」

 わたし達はこのひとことに少しだけ悲しみ、少しだけホッと安心する。木之本君に今付き合ってる人はいない、だから次は自分が告白してみようか。それはきっと言葉には出さないけれどみんなが思う事だった。

 そしてわたしにもそれを実行する気持ちになる時がやってきたのだ。




「わたし木之本君のことが好き」

 どうしてそんな状況になったのかは全く覚えてないけれど、一生伝えないつもりでいた想いを、わたしは他の子と同じ様に、放課後に呼び出しはっきりとためらうことなく告げた。今思えばきっと百々子ちゃんに急かされたような形だったと思う。いい加減言っちゃいなさいよ、と。
 ちなみに百々子ちゃんは先週に告白してはっきりと断られたようだった。

「ありがとう、でもおれ、好きなやつがいるから」
「ありがとう!」
「………?」
「……あれ、違った?」

 断られることは知っているし、そのあとショックをうけないようにイメージトレーニングしてきたのだ。断られて、そしてそれに「ありがとう、ただ伝えたいだけだったんだ」と返し、「ごめんな」みたいな会話をするんだろうと。

「いや、違わないと思う……けど」
「けど……?」
「……くく、ふッ」
「笑うなんて……」

 木之本君はわたしの告白をうけた瞬間、わたしの顔をみて何故だかあっと驚くような表情をしたのだ。何か顔についているのか、でも一応ここにくるまでに鏡でチェックしたはずだった。

「だって森下、おれのこと好きなんかじゃないだろ」
「え?」

 驚きの木之本君の答えとそれに続く言葉達。わたしはとりあえず固まった。

「断られてそんな顔する奴なんていないし、おれに断られたところで何も悲しくなんてねぇだろ」
「それは、………そう、かも、しれないです……け、けどそんな顔って!どんな顔してたっていうのっ」
「うーん……。阿呆面」
「なっ!」

 この時はじめて男の子からアホなんて言われた、と内心イラッときたものの木之本君はまた何か言おうとするので、とりあえずは何も言い返さずに次の言葉を待った。

「嘘だよ、幸せそうなツラ」
「どうして幸せそうなの」
「おれに聞くなよ」

 まあ、なんつーか美味しいもん食って幸せーみたいなツラ。と木之本君は言った。確かに美味しいものは食べるの好きだし、幸せってよく感じるけど、たった今告白した人に、たった今全く関係の無さそうな、そんな事を言うなんて。
 幸せそうな顔をどうしてしていたのかはわたしにもわからないけれど、木之本君がなんか実は意地悪な人だったとわかったのは良かったかもしれない。

 そうだよ、悲しくなんてなかったし、むしろ 木之本君のことなんて好きでもない!

「仲よくしようぜ」
「?」
「お前、なんか揶揄いがいがありそうだから」
「なっ……なんですって!」







「そんな事もあったな」
「まなみはそういうの根に持ちそう」
「うん。まーだまだ根に持ってるよ」

 月城君が買ってきてくれたわたしの大好物のおせんべいをむさぼりながら、昼食後のおやつをそれぞれ食べていた時だった。わたしがおせんべいを食べている顔をみた木之本君が言った言葉が発端で、中学生の頃の甘くない苦ーい恋バナを思い出したのだ。

『お前ほんと幸せそうな面してせんべい食うよな。すんげぇ阿呆面で』

 少なくとも女の子にかける言葉じゃないし、親しき仲にも礼儀ありっていう事、賢い木之本君が知らない訳がない。
 わたしは確かにか細いいかにも可愛らしい女の子ではないけれど、身なりはキチンと気をつけているし、何人か同じ学校の男の子に告白されたことだってあるのだ。
 特に現在お互い大切な人である月城君。月城君の彼女こんなさえないヤツなの、って思われたくないから、頑張って女の子らしく、可愛らしく、しているつもりだった。

 それなのにこの木之本君の言葉はわたしの心に突き刺さる。そしてわたしは物凄く根に持っている。昔も、そしてたった今、すごくムカついた。

「でも阿呆面だって思うだろ、ゆき」
「……うん、まあ、……だいじょうぶ可愛いよ」

 けれど二人ともわたしのこの顔を阿呆面と思っているのは間違いないみたいだった。悲しい。

「何がだいじょうぶなのかな……」
「安心しろよ森下。ゆき、これでも昔のおれに多少の嫉妬はしてるみたいだから」

「、とーや」
「え、」

 すると少しだけ眉尻を下げた月城君、そして真っ赤になるわたし。目を細める木之本君。わたしたち3人はとたんに静かになった。

「……めんどくせぇ事しちまったな……」

 そしていつでもお似合いだ、と言ってくれる月城君とわたしの一番の理解者は小声でそう呟いた。




うさぎ男子に出逢うずっと前

(最初に木之本君を好きになったのは、多分思春期特有のノリみたいな…)
(やっぱり好きだったの?)
(違くて、最初から好きでも何でもなかったんだよね!木之本君!)
((相当根に持ってんだな…))



 バカップル書きたかったのです


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