二十三話

「遊佐さん、ずっと聞きたかったんだけど、今日の私どう?」
「私もずっと言いたかったんだけど、似合ってるけどスカート短すぎる気がする」
「あああやっぱり! 悩んでこれにしたんだけど短すぎるよね⁉︎ ちょっと私駅前で適当に服買ってくる……」

 ずっと言いたかったってことは、お互いの家の最寄り駅で集合していつものように蕎麦屋に行ったところから、「コイツのスカート短すぎじゃね?」って思われてたんだ……。
 項垂れる私に、遊佐さんは「行ってらっしゃい」と言った。トートバッグから財布を取り出して中身を確認していると、続けて声が掛かってくる。

「今日例の人とデートなの? なんかいつもより可愛いじゃん」
「あの人もいるんだけどデートっていうか、焼肉を奢る会っていうか」
「……年上の社会人って話じゃなかった? 奢ってあげてるの?」

 眉を寄せて怪訝な顔をした遊佐さんに慌てて「違う違う」と声を上げる。まだ講義が始まるまで若干時間があるから教室内は騒がしく、多少声を上げても誰にも注目されなかった。私たちが若干悪目立ちしている二人組であったとしても、そもそも大学は広く学生数も多いため案外なんとかなっている。

「私が幼馴染みに奢ってあげて、あの人が私に奢ってくれるの」
「へえ。全部出してもらえばいいじゃん。甘えておきなよ」
「いやいや、それは流石にね。それに私がバイト始めたのって幼馴染みに奢ってあげるためだから」
「必死だなあ」
「必死にもなるよ」

 なにせ青宗はこうでもしなければ私と会ってくれない。私と会うと赤音のことを思い出すから……とかいうわけではなく、思春期かつ不良だから謎に尖っているらしい。わかささんたちが解説してくれた。
 わかささんとベンケイさん曰く「仕方ない」「誰にだってそういう時期はある」とのことだったが、実際私も高校生の頃はグレていたので分からなくもない感覚だ。実際に誰にだってそういう時期はある。私にもあったし、わかささんとベンケイさんにもあったらしい。

 だけど、だからって青宗に無視されたりするのは結構傷付くのだ。せっかく会えたんだから仲良くしたい。もう二度と会わないと思っていたのに偶然会えてしまったのだ。この偶然を大切にしたいと思うのは間違っていないはず。

 私の言う「幼馴染み」が一ヶ月ほど前に会った特攻服姿の金髪の男の子だと知っている遊佐さんは「ちょっと怖そうだったけど、綺麗な子ではあった」と素直な感想を聞かせてくれた。でしょうでしょう。見た目はうんと綺麗にかっこよく成長した。でも中身は可愛いまま。そういうところが可愛くて可愛くて、ないはずの姉心が刺激されるのだ。

「再会した時に泣いて迷惑かけたから、次はこう、大人の余裕を見せたいんだ」
「それでそのミニスカね」
「そう。それでこのミニスカを選ぶという大きな失敗をしてしまったの。じゃあ行ってくるから、あとでレジュメ見せて」
「了解、ちゃんとメモっとく。あと、大人っぽさを出したいならそっち系じゃなくてカジュアル系の方が吉野さんには似合うと思うよ」
「はい……」

 気合い入れすぎちゃったな。わかささんと青宗に会う前で良かった。このミニスカは封印しよう。


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 無事に駅前でシックなパンツを買って着替えて大学に戻り、ラストの三十分だけ講義を受けて、遊佐さんにレジュメを写させてもらってから大学を出た。そのまま電車に乗って最寄り駅に着いた時、時間にちょっとだけ余裕があった。軽く店を見たり青宗との会話の予行練習に付き合ってもらったりしていたらすぐに時間は過ぎたので、「途中まで一緒に行こうか」ということになり待ち合わせ場所に向かう。

「それでその時の真一郎くんがマジでかっこよくて」
「おーおー、そりゃかっけーわ。伝説はやっぱちげーんだな!」
「山田クンもかっけーよ」
「え、マジ? オレかっけーの? ヤベー、ちょー嬉しいんだけど。青宗お前なんか食いたいもんある? なんでも食わせてやるよ」

 なんかいる……。

 駅を出てちょっと歩いたところにあるベンチに座って誰かと話している青宗を見た時、私はもうすっかりテンションが上がってしまって駆け寄っていこうとした。しかし一緒にいた遊佐さんが「待って!」と短く叫んで私の首根っこを引っ掴んで壁際に押しやり、軽く首がしまった私は「うげええ」と情けない悲鳴をあげながらされるがままに壁と遊佐さんの間に挟まれた。

 しばらく喉を抑えて咳き込んでいたのだが、私が呼吸を整えている最中にも遊佐さんは「なんでアイツが……」と心底嫌そうにブツブツ喋っていた。誰かいるのかな? と思ってそちらを見てみたら、青宗の隣にいたわけである。角刈りからスキンヘッドに進化した、目付きも人相も姿勢も悪い厳つい奴が……。

 青宗もビビットピンクのトレーナーを着ていて目を引く派手さだが、隣にいる男が強面すぎて傍から見ればカツアゲされているようにしか見えない。しかし耳を澄ませて二人の会話を聞く限りでは、どうやら仲が良さそうである。なんなら私よりも青宗と打ち解けているかもしれない。


 湧き上がる苛立ちと嫉妬のままに舌打ちをすれば、隣に立つ遊佐さんも同じように舌打ちをした。「来んなよ、帰れよ……」という恨みがましい呟きが聞こえてくる。遊佐さん、わりと口が悪いのだ。

「吉野さん、アイツが来る時は教えてって言ったよね?」
「私も今日来るなんて聞いてない……」
「追い返してきて」
「えー……」

 お願い、と肩を掴んで前に押し出され、渋々二人の元に進む。追い返してって、そんな。私としても「なんでいんだよ」とは思ったけど、追い返すのは結構厳しくないか? 行動力と決断力が私たちの予想の斜め上を行く男だぞ。

 しかし、遊佐さんに頼まれた以上「無理ですよー」の一言で終わりにすることは出来ない。仕方なくとぼとぼ歩いていると、人の気配を感じたのかベンチに座った二人が同じようなタイミングで顔を上げてこちらを見た。軽く手をあげて「や」と挨拶をする。「おー!」と元気な声が返ってきて、青宗はひとつ頷いた。なんだその頷きは。なんの頷きなの。

「おせーぞ吉野! 青宗、コイツがオレが待ってた奴な」
「遅いも何も山田とはなんにも約束してないでしょ。アポ無しの突撃は認めてないです。帰ってください。青宗、待たせてごめんね」

 わかささんも後ちょっとで来ると思うから、と腕時計を確認していれば、山田が大声で「えっ!」と叫んだ。うるさいなあ、コイツ。

「お前ら知り合いか⁉︎」
「まあ……」
「幼馴染みだよ」

 ちょうど携帯がメールを受信したので確認しながら適当に言葉を返す。わかささんからだ。「駅着いた。もういる?」と来ている。えーっと、揃ってる、っと。

 もうちょっと合流に手間取るかと思ったが、すんなり集合できた。一人邪魔者はいるけどね。
 その邪魔者が「知り合いなら言えよ!」と青宗の肩に馴れ馴れしく自分の腕を回しているのを横目で見つめつつ、携帯を閉じる。やっぱり不良系の人って馴れ馴れしいというか、距離感が近い。青宗も特に嫌そうな顔をすることもなく「知らなかったから」と返事をしていた。やっぱり懐いてる。

「アンタこそどこで青宗と知り合ったの?」
「や、オレさっきここ着いたんだけどよー、ちょうど青宗が喧嘩売られてたんだよな。ほっとけねーだろ? だから助太刀に入ったってわけ」
「へー。青宗、大丈夫だった?」
「勝った」

 勝ったならいいか。いや良くないけど、まあ負けるよりかはいい。うん。
 聞きはしたが山田と青宗がどんな風に出会ったかなんて言うほど興味はない。適当に流してほとんど無視したが、山田は「相ッ変わらずだな」と笑うだけだった。ね? 適当でいいんだよ。

「お前らこの後どっか行くの? 飯食いに行くならオレも着いてっていい?」
「ダメ」
「ちょっと待って、ワカクンに聞いてみる」
「ワカクン⁉︎ え、白豹⁉︎」
「うん」
「東京ヤベー! オレ死ぬまでに一回は初代黒龍の皆さんに会ってみたかったんだよ!」
「ねえ私ダメって言ったんだけど」

 私の知らない話しないでよ、と続けたのだが、二人はすっかり不良談義を始めてしまい、無視されて終わった。二人とも酷い。

 盛り上がる二人についていけずに足元の小石を蹴っていると、誰かが駆けてくる足音がして、そのまま肩を腕で抱かれた。こんなことをしてくるのはわかささんだけだし、匂いがわかささんだ。特に振りほどくこともせずに背後から抱き締められるような体勢になったまま、「悪い、遅れた」と耳元で謝ってくるわかささんに「私も今来たから平気だよ」と答える。

「オレいっつもお前のこと待たせてる気がする」
「わかささんのこと待つのは嫌いじゃないから余程遅刻しなきゃ許します」
「……ならいいけど、次からは待たせねえようにする。一人にしとくとすぐ他の男に声掛けられっからな」

 肩に顎を乗せて喋られているから結構肩が痛いんだけど、わかささんはそんなこと気にせずによく喋る。家にいる時もこんな感じで抱き締められることが少なくないからそろそろ慣れてきたとは言え、ふわふわの髪が頬に当たって擽ったいし、今ここは外だし、ちょっと離れて欲しくもある。

 私の手を掴んで握って手遊びをしているわかささんの口からひょいっと焼き鳥の串を抜いて、「危ないからやめようねって言ってるでしょ」と何度目かの注意しておく。こんなもの咥えたまま転けたら大変なことになる。想像したくもない。
 そんなことになって欲しくないので私は真剣に注意しているのだが、わかささんは真剣に受け止めてくれない。「分かった分かった」といつものように適当な返事をして、話を逸らすようにして「そういや」と口を開いた。

「さっきそこでお前のダチのユサさん? だっけ。その子に会ってさ、伝言頼まれたんだったワ。『私は帰るけど、絶対追い返しといて』だってよ」
「ああ……ごめん遊佐さん、無理そう……」

 わかささんが来たことにも気付かずに青宗と盛り上がっている山田を見る。私たちは確かに友人だけど、友人だからって山田が私の言うことを聞くかというと、全くそんなことはないのだ。
 私の視線の先を辿ったのか、わかささんが今更ながらに「アレ誰?」と聞いてきた。「青宗のダチか?」と言うわかささんに軽く首を横に振る。

「山田だよ」
「やまだ……あー、例の男か。なに、お前ら会う約束してたの?」
「してない。なんか勝手に来て、勝手に青宗と仲良くなった。ねえわかささんからもなんか言ってやって。アイツ焼肉ついてこようとしてるよ。青宗はもう山田の味方。私の味方してくれるのはわかささんだけなの」 「おー、任せとけ」

 よし! これで百人力! 

ふたつおりのひとひら