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 あれはオレたち十代目黒龍が東京卍會に吸収されてから二度目だか三度目だかの集会の始まる直前のことだった。オレは集会場である神社につくなり稀咲と外国為替相場の上昇と今後の展望に関して話を始め、一緒に来たはずのイヌピーは気付けばいなくなっていた。
 まあオレにはオレの交友関係があるように、イヌピーにもイヌピーの交友関係がある。大方花垣に声を掛けに行ったかドラケンとバイクの話でもしているのだろうとその時はさして気にもしなかったが、そろそろ集会が始まるだろうからとオレが稀咲と解散した直後に見計らったかのように戻ってきたイヌピーは、花垣でもドラケンでもない意外な相手を連れていた。都内でそれなりに有名な女子高の制服を着た女である。
「ココ、紹介したい奴がいる。オレのヨメだ」
 『紹介』の時点で、それどころかオレのことを呼んだその時点でイヌピーは既に『ヨメ』の肩をこちらへと押しており、『ヨメ』は『ヨメ』でされるがままに押し出されてぺこりと頭を下げていた。オレはと言えば、なぜだか自慢げなイヌピーと、頭を下げ続けているせいで右回りのつむじしか見えない『ヨメ』とを何度か見比べながら「はあ……」だとか「なるほど……」だとかさして意味の無いことを言った後に、「どうも」と同じく頭を下げた。
 軽く頭を下げただけだったオレが頭を上げても尚、イヌピーに背中を叩かれるまで頭を下げ続けていた『ヨメ』に対する印象は、身も蓋もないが「変なヤツ」に尽きる。頭を上げたっきり何も言わず、ほぼほぼ無表情でこちらをジッと見つめてくるだけなのも「変なヤツ」という印象を強くさせた。
 数秒間目を合わせ続けたものの、無表情のくせに何かを言いたげな視線と真正面から見つめ続けることに耐え兼ねてオレの方から視線を逸らすのと、少し離れた場所からドラケンの集合の声が掛かるのとはほとんど同時だった。オレもイヌピーも咄嗟にそちらを見上げる。集会が始まるのだ。
 オレたちは漆番隊の副隊長……ではないが、集会時は隊長である大寿のそばに控え、他の隊の副隊長と横並びに並ぶことが暗黙の了解になっていた。今日だってそれは変わらないため、すぐにでも前に行かなければならない。少しでも集合が遅れれば大寿から叱責と拳が飛んでくることだろう。
 そう思ったオレがイヌピーに声を掛けるよりも早く、イヌピーは「じゃあまた連絡する」と言って『ヨメ』の背を軽く押した。『ヨメ』も『ヨメ』でイヌピーのその言葉にこくりと頷いて再びオレの方に頭を下げると、今度はサッと頭を上げてそれっきり振り返りもせずに駆け足で神社を後にした。思わずその後ろ姿を目で追っているオレに何を思ったのか、イヌピーは顔を顰めた。
「おいココ、早く行かねえとまた大寿に怒られるぞ」
「分かってるよ。っつーかこの前怒られたのはイヌピーのせいだからな?」
「……あれは大寿も悪かった」
「そこで大寿に責任転嫁にかよ」
 堂々としすぎていて華麗なまである責任転嫁に思わず笑っていると、前方から数百人のざわめきにも負けない「おい!」という怒声が聞こえてきた。大寿だ。弾かれたように駆け出したイヌピーの後を追ってオレも人波を縫って走る。
 ……それにしても、イヌピーの『ヨメ』、本当に変なヤツだったな。一言ぐらい喋れよ。「よろしく」とか、なんかあんだろ、なんか。
 イヌピーの『ヨメ』とオレの邂逅は概ねそんなもので、この後大寿にとっては軽く、オレたちからすればそれなりの力で叩かれた頭の痛みの方がよく覚えているぐらいだ。しかしオレは今後長い年月をかけて、この「変なヤツ」が「正真正銘変なヤツ」であることを知っていくことになる。

ふたつおりのひとひら